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創作シリーズ

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Aoyが過去に創作した作品集です
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記事一覧

[創作]君を守る

[創作]君を守る

一組のカップルが夜の街を歩いていたところ、とある輩の集団に2人はつかまった。

そこでカップルの彼氏の方に連中が金を出せと要求した。

「おい、分かってるだろうな。」

彼氏は答える。

「はい、すみません。ほんとうにすみません..。これしか持っていませんが、ほんとうに申し訳ありません...。」

「クソが、そんなもんしか能がない彼氏を持つ彼女も可哀想なもんだな。」

「言葉がありません..。申し

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[創作]高1

[創作]高1

「時代の流れは多様性と言いながら、その本質は希薄になっていると思います。」

「そうだね、繋がるのは簡単になったけれど深さは難しいところだね。」

高校生の女の子はもう一度答える。

「私たちにだって許されているものはあります。例えば今聴いてる音楽とか、あとは読書。街のことと社会のことは知るのは難しいかもしれない、なぜなら私たちのような若い世代が社会を知ろうとすればちょっと問題も出てくるから。社会

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[創作]1人の好青年の交換

[創作]1人の好青年の交換

1人の好青年がギルドを訪れた。

そこは自身の能力を受け渡すことができ、それが正当な価格で他のプレイヤーに売られる交換屋である。

好青年は一つ、「高い文章力」を渡した。

好青年は二つ、「IQと思考の素地」を渡した。

好青年は三つ、「誠実さ」を渡した。

好青年は四つ、「容姿」を渡した。

ギルドマスターはそれらを引き継ぎ、正当な価格で他のプレイヤーに売る。

価格は日本円で以下のようになった

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[創作]専門性に終帰する恋愛

[創作]専門性に終帰する恋愛

「あなたのことを信じているから。」

「ありがとう。最近の調子はどう?」

「クライアントの方の進捗がちょっと。言語化がうまくできなくて視聴率が伸びないみたいで。」

「そうなんだね。それはその人の言う"休み"を多くとってあげればいいよ。」

「え?そうなの?」

「休みがふっと力を抜けさせて、自分の中でエネルギーが巡るようになるからね。」

「そうか。そういうことかぁ。私もまだまだだね。」

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[創作]影響

[創作]影響

かつて大学からの旧友だった社会人2人が再会した。

「よう、久しぶり。」

「久しぶり、元気してたか?」

「ぼちぼちやってるぜ。そっちはどうよ。」

「もうブログが軌道に乗りまくり。エンジョイ〜」

「ほう、いいな。うまくいってるんだな。」

「時代に恵まれたよ。そっちは公務員、どうよ。」

「今はまだ事務作業だから、そんなに困ることなくやってるよ。」

「ほう、でも事務も最初はむずかったんじゃ

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[創作]間接的に愛を受け取る

[創作]間接的に愛を受け取る

「あなたのような若さで、思想書やレベルの高い実学書なんかを読んでいてすごいですね。」

「ありがとうございます。褒めていただいて嬉しいです。私が本を進んで読む理由は、本がなければ、つまり先人の智慧がなければ、私の心は絶対的に自立し得なかったからです。

時として絶望を垣間見るこの世界の中で、その無常の世界の上で、たぐり寄せる希望が一つもないとすれば、私は必ずや人も殺していたし、どんな悪行も尽くし、

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[創作]気品のある冗談を言う人

[創作]気品のある冗談を言う人

私は彼と恋に落ちた。

はじめて彼を見た時、深い顔をする人だな、と思った。

私は日頃より自分の限界や力不足を感じていて、どうしても高い壁を突き破ることができなかった。

でも彼は常に笑っていた。彼は常に笑っていて、そして彼が言う冗談の節々に感じる知性は、「すべて筋が通っていた」。

私はとても興味を持った。彼は何を見てきたのだろう、彼は一体その若さでその精神にどんな巨魁を抱えたのだろう。

ある

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[創作]か細く生きる花

[創作]か細く生きる花

僕は彼女と恋に落ちた。

彼女との出会いは大学の構内で、授業が被ったことによるものだった。

彼女は黙々とノートを取っていて、僕の大学では(というよりどこの大学でもだとは思うが)そんなすべての文字を書き取るような人は滅多にいなかったので、半ば僕は感心していた。

そのノートは色彩に富んでおり、綺麗な図解と、それでいて膨大な量の書き留めがあった。

それを見た時、「これが女の子なのか」と僕は思った。

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[創作]大学生男女の会話

[創作]大学生男女の会話

「人生苦なりについて、どう思う?」

その女の子は問う。

男は答える。

「人生苦なりは努力だね。努力したら苦なりになる。努力に目覚めてなければ、それは享楽になるよ。」

「享楽か、つまりは出会いということね。」

「うん。享楽は出会いで、出会いは痛みの感情に薄いことだ。痛みの感情に薄いということは、人生が苦なりではないということだ。」

「分かる、もし本当にその人が苦しんでいるのだとしたら、他

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[創作]コーヒーが飲みたい

[創作]コーヒーが飲みたい

「どうしたの?」

「いや少し思うところがあって、私も飲みたいと思ったの。」

彼女は生来コーヒーを飲める人ではなかった。小さい頃からその苦味と香りが嫌いだったらしい。しかし今日はその彼女がコーヒーを飲みたいと言い出した。

僕は驚いて、でも心なしか否、深いところで嬉しさを感じて、少し心配しながら話した。

「あんま無理はしないで。これは家のドリップコーヒーよりも深く煎たものだから味も濃いよ。」

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[創作]ああ、桜

[創作]ああ、桜

時としていつの日か僕が、ただ人から愛されたかったという事実に気がつく時、それまでの過酷をボロボロにまでなって生き抜いてきた自分と、それを見届けたいつかの紅葉を思い出して郷愁する時、その愛はあなたという彼女の情緒のもとに、万年の永遠であってくれ。

万年も無限、永遠も無窮だ。
時として春が来る。

彼女が話す。

「あなたはどうして生まれてきたの」

僕は答える。

「きっと季節の気まぐれだよ」

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[創作]まだ見ぬ人

[創作]まだ見ぬ人

永い永い冬を抜けた喜びの春は、その幾千のノイローゼの先に、確かにあった人生の青い喜びに、顔を紅潮させながらそれでいてまだどこかぎこちない顔ではにかむ君と、繋がれた手からその体温の温もりとこの季節の予兆を感じる時、私はこのおかしな人生に謝罪と感服とで街を歩く。

「こんな休日は久しぶり」

「僕もちゃんとして過ごしたことはない」

2人はどうもその距離感と、この許された運命に心の落ち着けるところが分

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[創作]ままなら

白色の太陽の明るさがすべての光の反射と色彩を持つように、つまり白色の太陽からすべての色が生まれるように、私は1人の人間としてその本願のような人間でありたいのであり、それが醜く汚い自己であったとしても、それをこそ認識する人が美しいのだという真実と共に、私は今日もこの街の雑踏と喧騒の中を縫う。

疲れ果てた。疲れ果てた私は、その朦朧とする意識の中で言葉を紡ぎ出し、朦朧としているが故に意識と無意識との境

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[創作]白光する雲

母の運転する車に揺られ、精神科に向かう時、一つの大きな橋から見渡した遥か先にある連なる山と、その空と点在する雲とが、まばゆい白い光となってその雲空全体を白く発光させていたのを見た時、私は何か懐かしい感覚を覚え、その下に流れる汚濁した茶色の濁流とを側で取り囲む緑に支えられて通った時、生きる意味を感じた。

精神科では主治医には談笑でもって答えたが、隣にある機械の方に目くばせする比率の方が高く、また時

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