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「海の都の物語~ヴェネツィア共和国の一千年」 by 塩野七生

昨年、SOMPO美術館で開催していた「カナレットとヴェネツィアの輝き」展に行った話を書いたが、

この展覧会は何か月も前から楽しみにしていて、その予習にもなるかな、と以前読んだ塩野七生さんの「海の都の物語~ヴェネツィア共和国の一千年」を、本棚の奥から引っ張り出してきた。


薄い文庫とはいえ6冊もある。読み切れるか?と心配になったが、やはり興味深い内容なので大丈夫だった。
さて、感想を書こうとして、以前読んだ時にどう思ったのだろう?と、当時別の場所に書いた日記をチェックしてみたら、誰が書いたの!というくらい素晴らしい内容(笑)で、これ以上のものは書けそうもないので、誤字などを修正してそのまま貼り付けることにする。(補足は別)


海の都の物語~ヴェネツィア共和国の一千年(by 塩野七生)」(2016.9.26)

塩野七生の『海の都の物語~ヴェネツィア共和国の一千年』は、文庫本6冊分あるが、1巻はさほど長くないし、40冊以上ある『ローマ人の物語』に比べれば全然短いので、予想ほどは時間がかからなかった気がする。

5世紀ごろ、古代ローマの湾岸に住んでいた人々(ヴェネト人)が、蛮族の侵入から逃れ、潟(ラグーナ)の島に移住。
697年にヴェネツィア共和国初代元首を選出。
そして、この小さな国は、1797年にナポレオンに屈するまで、1100年も独立した共和国であり続けたことは驚異的だ。
しかも、宿敵トルコとの戦いなど、常に危機にさらされてはいたが、内乱的なものは、1000年のうちわずかに2回だという。
その理由がこの本を読むうちに徐々にわかってくる。

まずは、民主制、貴族政、君主制が微妙にミックスされた、絶妙な共和政体。
役人のわいろは死刑!ドージェ(元首)を選ぶにも選挙とくじ引きの併用。
くじ引きなどと聞くと、なんといい加減な、と思ってしまうが、これがコネや私情、無駄な選挙運動などを排除するのに結構良い方法なのである。
政教分離と言論の自由。
紛争の多くは宗教がらみのことが多いが、政治と宗教を切り離すことにより、その影響を最小限にしたことは大きい。
また、他の国では発禁になった書物なども、ヴェネツィアでは堂々と売られていたりするので、研究熱心な人もやってくる。問題行動で追放になった人もヴェネツィアにやってくる。
優秀な人材が自然と集まってきたのだ。
結果、文化水準も高くなる。
世界最初の銀行。フィレンツェと違って主役はあくまで商人。
医療水準の高さ。外科医と床屋の区別を明確にした最初の国。
元々は、海運業で栄えた国なので、誰でも裕福になれる可能性はあったし、また貴族という身分はあったものの、それはあくまで名誉職のようなもので、決してお金持ちというわけではなかった。
頑張ればお金持ちになれる、と思えばみな頑張るもの。結果として国自
体も裕福になる。

概ね1-3巻が、ヴェネツィアが徐々に発展していく過程、4-6巻が徐々に衰退していく過程という感じだ。
貿易だけでは成り立たなくなり、工業、農業に力を入れるようになり、それはそれで成功したものの、貧富の差が生まれ、結果としてそれが衰退していく原因となったといえる。
国の一生は、長いか短いかという違いはあっても、同じような経過をたどるような気もする。
そう考えると、ほとんどの人が中流意識をもっていた日本が、格差社会に突入しつつあるというのは危険な状況なのではないかと、不安にもなる。

いろいろ勉強になったが、個人的には、別の意味でもずいぶんと楽しめた本だった。
展覧会でお知り合いになった人々(ビアンカ・カッペロ、ティツアーノ、ティントレットなど)や、『緋色のヴェネツィア』で登場した人物(アルヴィーゼなど)の名前を見かけるだけでもうれしい。また塩野七生のミステリー3部作の主人公「マルコ」の、姓「ダンドロ」がどれだけ大きな意味を持つかも実感できたのだった。

補足:
塩野七生のミステリー3部作となっているが、現在は4巻目が発売され、タイトルも改題『小説 イタリア・ルネッサンス』となっている。
緋色のヴェネツィア』は、この1巻目にあたる。
その記事がこちら:


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