アトピー周辺知識32: 水素産生菌・プレバイオティクス
前回の記事にて触れた頭痛は限界量のEPAと一定のグルタチオンの継続摂取にて無事解消され、ついでに全身の炎症がやや弱まり、寝付き・寝起きの悪さまでもが改善された。ここまで綺麗に症状が治るというのも珍しいため中々喜ばしい事である。
前々から抗酸化物質としての水素の利用についても思案しており、しかしながら資金的なハードルやエビデンスの面での不安から手を出せずにいた。
・水素水導入の難点とエビデンス不足
そもそも信頼性が高く充分な効果の保証されている水素水生成器は価格が高く、大体は水道蛇口に据え付けるタイプであるため気軽に導入出来るものではない。
また昨今では水素水生成器での水素生成量が体内の水素産生菌による生成量に比して遥かに劣るとの話もあり、腸内細菌叢が抗生剤等により余程荒らされているのでもない限りは体外からの摂取より、まずは体内での産生を増やす方針がより現実的であるとの判断に至った。
救急医療での水素ガス吸入療法などは患者の生存率や社会復帰率を高める効果があったそうだが、そういった治療もやはり短期の緊急措置としての効果であり、平時の水素産生量全体として外部からの摂取のみに頼るのは効率的でも経済的でもないと思われる(水素の摂取自体に効果が有るのは間違い無く、重症者などが急性症状の緩和に用いる分にはむしろ安全かつ経済的であるとも言えるか)。
外部からの摂取ならば水素水の摂取よりも水素ガス吸入や水素入浴(水素風呂)の方が効果的か(経皮吸収や鼻呼吸という吸収方法の関係から患部である皮膚や脳に作用し易く効果的に治療が行える)。ただ効果や安全性を考えると医療用等信頼性の高いものを用いる必要があり、やはり高価である事は難点として残る。
・体内の水素産生菌に対する誤解、免疫機能・恒常性維持機能の一部としての水素産生菌
以前抗酸化物質としての水素について触れた際、体内での水素産生は免疫機能としての働きや生活習慣病・アレルギー性疾患の治療には不十分と見做していたが、これは完全に自身の誤りであった。
体内産生での水素が様々な疾患の治療に有効であるならば何故アレルギー性疾患等の症状が出るのかという疑問も生じるが(この点から読み間違えて誤解に至ったか)、そもそもその水素産生不足自体が腸内細菌叢のディスバイオシスから生じているという事が最近の研究により明らかになってきた。
アレルギー性疾患やアトピー性皮膚炎も炎症性疾患や胃腸障害として上記の疾患群に含まれると見て間違い無いだろう(何故か疾患例にて「炎症」とだけ記され具体的に言及される事が全くないのはいつもの事である)。
個人的には腸脳相関においても水素が大きな役割を果たすとの見解には驚かされたが、胃腸障害での各種ミネラル欠乏による多様な影響を鑑みれば、水素の優れた膜透過性と拡散性も含めてそれだけの影響を与え得る特性を持つと言えるのかもしれない。
・水素産生菌としての酪酸菌
水素産生菌である腸内細菌の中でも昨今注目され様々な健康効果を持つものとして酪酸菌が挙げられる。
・酪酸菌と長寿村の食生活
酪酸菌の説明として頻繁に用いられる例として「京丹後長寿コホート研究」が挙げられる。京丹後市は「100歳以上の人口の割合が、全国平均の約3倍にのぼる長寿地域」であり、住民の腸内細菌叢において酪酸菌が多く確認されたため、酪酸菌と長寿の関連性が示唆される事となった。
水素産生菌の項でも述べたが、酪酸菌による水素産生にて様々な炎症性疾患、ガンを始めとして人体の老化に伴う多様な疾病を改善する効果があり、酪酸も免疫機能の調整作用を有しアレルギー性疾患や胃腸障害に対し効果が期待出来る。
・プレバイオティクスの利用、フラクトオリゴ糖とその利点
酪酸菌自体の外部からの摂取は整腸薬や生菌剤か糠漬け等の一部発酵食品による他なく、京丹後市においては体内で積極的なプレバイオティクスとしての食物繊維の摂取にて酪酸菌を増殖させた結果の腸内細菌叢の良化と考えられている。海藻や全粒粉には水溶性・不溶性食物繊維に加えて多様なミネラルが含まれ、これも酪酸菌含む腸内細菌の増殖を助ける。
昨今酪酸菌のプレバイオティクスとして注目されている食品としてフラクトオリゴ糖があるが、これは他の水溶性・難消化性食物繊維と比べて酪酸菌の餌となり易く、水素産生に寄与する機能が高いためである。
他にも精製糖である白砂糖と比べて血糖値が上がりにくく、腸内の悪玉菌の餌とならないなどアレルギー予防の観点からもメリットが多い。白砂糖よりカロリーも低いため白砂糖の代替調味料としても優秀である。
注意点としては加熱し過ぎるとオリゴ糖が分解されて難消化性食物繊維としての性質を失うため、温めても40度以下の人肌程度までに留める事である。基本的には温くする程度で余り加熱しないで食用した方が良い。
更に踏み込んで「フラクトオリゴ糖の摂取によってマウスの結腸に定着したC. albicansを除菌できる」との研究報告も有り、アトピーやアレルギー患者はカンジダ除菌のためにもフラクトオリゴ糖を積極的に摂取すると良いだろう(併せてミヤリサン等の酪酸菌含有の整腸薬も摂取すると尚良い)。
・アレルギー増悪因子としての消化管内カンジダ菌定着の解析および食餌によるその制御を介したアレルギーの予防・改善
フラクトオリゴ糖よりも更にプレバイオティクスとしての性能の良いものとしてケストースがあり、乳幼児のアトピー性皮膚炎やアレルギー性疾患の緩和に役立てられているそうである(いわゆるベビーオリゴ)。乳幼児にも与えられる程に安全性が高い分、普通のオリゴ糖に比べてかなり高価となっている。
ケストースは犬のアトピーにも処方されるため、犬の飼い主であれば知っているサプリかもしれない(やはり自由診療の方がより良い治療に触れやすいのか、皮膚科医より小児科医や獣医の方がアレルギー性の皮膚疾患治療に明るいのか…)。
腸内細菌叢改善への積極的な効果が見込めるため、ファスティングと組み合わせて回復食など事後の栄養摂取に活用したり、糖質制限に取り入れるなどしても体質改善に大いに寄与するものと思われる。
・長寿と水素、人体抗酸化能の一部としての水素産生菌共生
以前に霊長類におけるSOD酵素産生能力と寿命の関係性を示したが、長寿の町の研究は腸内細菌叢が人類のSOD酵素産生能力に水素による抗酸化能を上乗せする形で大きく寄与している事を示している。同時に腸内細菌叢がディスバイオシスに見舞われれば人体のSOD酵素産生能力の低下と等しい悪影響を受け、様々な慢性疾患の引き金となり得る事をも表していると言えるだろう。
そもそも人間は哺乳類の中でも長命な種であるが、同時に腸内細菌叢内での酪酸菌占有率が哺乳類中で目立って高い(約14%)。他の長命種がクジラや象など巨大な体躯を持つのに対して、人の大きさで80年前後という寿命がいかに異質なものかが容易に理解出来る事と思う。
因みに象の酪酸菌占有率は約4%と人と3倍以上の差があり、酪酸菌の占有率は人を含む雑食動物に多い傾向にあった(プレバイオティクスの摂取し易さによるものか)。
霊長類でも人に近いチンパンジーですらも酢酸菌(ビフィズス菌)や酪酸菌の占有率は低く、これはチンパンジーがほぼ草食である事からくる。
人の長寿は人体の抗酸化能の高さに由来するが、その中には酪酸菌の少なからぬ恩恵が含まれている事だろう。
水素の優れた膜透過性・拡散性と安全性は抗酸化物質として唯一無二であり、優れた抗酸化物質は他にも有れどそれらを兼ね備え、かつ安全性の高いものは水素以外に存在しない。
・草食動物2種と雑食性哺乳類5種の糞便微生物叢の比較
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/asj.13366
肉食動物は腸が短くなるかわりに強力な消化酵素を持ち、草食動物は乳酸桿菌や乳酸球菌が腸内細菌叢の多くを占めるとの事。雑食動物、特に人ではビフィズス菌(酢酸菌)や酪酸菌の占有率が高くなる。
また腸の長さでも雑食動物は肉食動物と草食動物の中間的な性質を持つ。人間でも肉食性が強い人種は腸が短く消化酵素が強力であり、日本人はその点雑食性が強い人種と言える(表皮の角質層の薄さに加えて消化酵素の弱さと、酪酸菌始め腸内細菌への依存度の高さも日本人のアトピー性皮膚炎の発症し易さに繋がっていると思われる)。
草食動物はその食性故に腸内細菌の喪失は死活問題であり、食糞により次世代へと積極的な腸内細菌叢の受け渡しを行う。雑食動物である人でも草食動物程では無いとはいえその重要性は高く、自然分娩であれば出産時の産道にて腸内細菌叢の引き継ぎを行っている(そのため帝王切開では施術において意図して母親の腸内細菌を出産児に付与する必要がある)。昨今たまに聞く糞便移植などは性質としてはより安全性に配慮した食糞と言えるのだろう(残念ながらアトピー性皮膚炎患者への糞便移植は一般に効果が薄い)。
人間においては抗酸化能や免疫機能の一部を腸内細菌叢の酪酸菌に強く頼っている関係上、一見腸内細菌叢全体には問題が無い様に思えても酪酸菌の喪失により慢性疾患の発症へと繋がる事になる。
・追記: 生物進化と抗酸化能
哺乳類への進化の過程で我々と腸内細菌は分かち難い共生関係を築いたのであり、その関係性を破壊する事は自らの身体を切り落とすに等しい愚かしい行為と言える(昔は胸腺の人体における役割が分からず、不必要な器官として施術にて破壊された事もあったという恐ろしい逸話を彷彿とさせる)。
…にしてもようやく医学・栄養学と生物学・進化生物学との積極的な学際的連携を行えた気がして何とも感慨深い。生物進化の歴史とは真核生物の抗酸化能進化の歴史であり、それに伴う動物と腸内細菌の共進化の歴史でもある。真核生物もまた共進化の賜物である事を鑑みれば、進化とは常に共進化と共に進展するものなのだろう。
鳥類は哺乳類とはアプローチが異なり、抗酸化能を高めるのではなく活性酸素の発生自体を抑制する事により高い運動能力や持久力・長い寿命を獲得したそうである。
昆虫においても免疫機能は腸内微生物に頼ったものになっているらしい。
…今思えば土いじりや農業・畜産業との関わりによりアレルギーが予防されるのも土壌中や畜糞中の酪酸菌等によるものが大きいのだろう(昔の清潔さによるアレルギー発症説は強ち間違いでもないか)。土壌カプセルを定期飲用する変わり者の学者の話なども何処かで見た覚えがあるが、それも同様の効果を及ぼすのかもしれない(土壌菌カプセルはネットでも普通に購入可)。
・多様な薬剤とその併用が及ぼすヒト腸内細菌叢への影響、アレルギー性疾患との関連
各種腸内細菌の中でも抗生剤や多様な薬剤による酪酸菌・酢酸菌(ビフィズス菌)への悪影響は大きく、特に一般に起こり易い抗生剤不適正使用はアレルギー性疾患始め慢性疾患発症の強い要因になっていると言える。
酪酸菌の生み出す酪酸による免疫調整機能と水素による抗酸化能の双方を失い、免疫異常から炎症が起きるも抗酸化能の低下により抑制も出来ず、慢性炎症は更なるアレルギーを惹起し各症状や胃腸障害により新型栄養失調を来す。栄養失調による内分泌異常と発育不全から免疫異常と炎症の抑制は更に効かなくなり、アトピックマーチや慢性炎症に伴う循環器疾患・呼吸器疾患・肝臓障害・腎臓障害・軽度脳障害・精神疾患へとその悪影響は拡大していく。成長期の終了まで続き、免疫機能・抗酸化能の減退により壮年期半ばから再発も起き得る。
抗菌薬適性使用の徹底による原因根絶が最善ではあるが、乳児への早期介入としての生菌剤やプレバイオティクス摂取、栄養療法により次善の予防治療は可能だろう。
以後では発症したアレルギーは消せないだろうが腸内細菌叢の良化とアレルゲンの除去、新型栄養失調の改善や免疫機能・抗酸化能の向上により慢性症状の緩和・改善は可能である。対処の遅れにより症状も進んでしまっているため、急性症状への対症療法は期間を区切り一定程度までは受け入れるしかないだろう。
…現状でもほぼ同様の治療が場所によっては行われているが、情報の周知や共有が皮膚科・小児科間でも徹底されておらずその点は問題しか無い。小児科にて通院治療中の患者はまだ良いが、現在皮膚科にて治療中の成人患者が望ましい治療から取り残される恐れが多分にある。