1本の眉間のシワが教えてくれたこと
ある朝、洗面所の鏡を覗くと眉間に1本の横線が刻まれていた。
「ん!?こんなのあったっけ?」
気になり始めると、その線は日ごとに濃く深くなっていくように感じる。
でも私には顔をしかめるような癖もないはずだし眉間にシワを寄せた覚えがない。適当にクリームなどを塗りこんでやり過ごしていた。
この頃、今の家に引っ越したばかりでかかりつけ医を探していた。そんな時にタイミング良く歯科医院開院のチラシがポスト投函された。最新設備と美しい院内の写真に惹かれて息子と一緒に予約を入れた。
診察当日、院内はまだ新築の匂いがする。診察室に通されると、これまでの歯の履歴や生活習慣についてかなり細かく質問された。
レントゲンを撮ったあと再び診察室へ。
院長先生が衝撃のひと言を告げた。
「まなさん、かなり歯ぎしりや食いしばりをされていますね。」
「えっ!?ほ、ほんとですか!?」
相当テンパっている私に手鏡を渡し、冷静に丁寧に説明してくれる。
口の中には食いしばりによるコブができていて、歯自体にも細かい「クラック」という痕跡があること。このまま続けると歯並び、虫歯、歯周病などさまざまなトラブルの原因になると、優しい口調ながら厳しい警告を受けたのだった。
原因は浅い眠りやストレスとも聞いた。
この時、ピンときた私は
「もしかして、この眉間のシワもそれでしょうか‥!?」
「可能性は非常に大きいです。顔をしかめながら食いしばったり歯ぎしりしているのかもしれませんね。」
先生は深くうなずきながら言った。
そういえば思い当たることがある。
朝起きた時に耳の下あたりに疲れを感じる。なんだか口周りがダルい。夢の中で力んでいた感覚がある‥。
1本の眉間のシワの正体が判明した瞬間だった。
その場でマウスピースの予約を入れた。
歯科医院に定期的に通い続けてもう15年になる。
この歯科医院、歯のクリーニングとセットで歯茎マッサージをしてくれる。
文字通り、歯茎をマッサージするのだが、これが実に気持ちが良い。特に噛み合わせの1番奥の咬筋あたりを絶妙な強さ加減でほぐしてくれる。この時、患者側は脱力しているだけでよく本当にリラックスできるのだ。
歯茎マッサージがすっかり気に入り、歯科衛生士さんに教わったやり方で入浴中に自分でもやるようにしている。
マウスピース、歯科医院での定期検診と歯のクリーニング、セルフ歯茎マッサージ。
口腔の3種の神器を手に入れた私の歯は15年、虫歯にもなっていない。そしていつの間にかあの1本の眉間のシワも消えてしまった。
3種の神器の効果を感じてからは、3種類の歯磨き粉、2種類の歯ブラシ、フロスと糸ようじを常備して使い分け、すっかり口腔オタクと化している。
『肌が髪か』の記事で、人に見られる機会が多いのは肌より髪だと書いた。
これには続きがあって、髪、肌の次は目、歯だと思っている。
人は最初に挨拶する時は目を見るが、話し始めると口元に目がいく。だから歯並びや歯の色も、人の印象を大きく左右すると思うのだ。
見た目だけでなく、食べる・咀嚼することは私たちの一生に欠かせない。口腔の疾患と全身疾患には深い関わりがあると言われている。
口腔の健康維持が私たちの生活の美や健康の土台に深く根ざしていると考えると、日ごろの歯磨きやケアだってとてもおろそかになんてできない。