【読書感想文】 著者の頭の中を覗いているような不思議な世界観 『一人称単数』
これまでの人生で衝撃を受けた曲は数々あれど、問われて真っ先に思い浮かぶ曲は、真心ブラザーズの『拝啓、ジョン・レノン』です。
1996年6月21日に発売された、14枚目のシングル曲であります。
その年の大晦日、新しい年を迎えんとするその時、私は自室でラジオを聴いていました。
とあるライブハウスからの中継で、盛大なカウントダウンののち、「あけましておめでとうございまーす!!」と言う賑やかな声が聴こえてくるやいなや始まった曲が、あのジョン・レノンへの反抗期を経た真っ直ぐな尊敬と憧憬と溢れんばかりの愛を叫びまくるその曲だったのです。
「ちょっと待って!! 新しい年の幕開けで聴かされる曲がこれなの!!」
と、衝撃と驚愕と感動で飛び上がったことを私は未だに鮮烈に覚えています。
そして、今、これを書きながら、その出来事が最早25年も前のことになろうかという事実に愕然としております。
余談ですが、至極感動した私とは裏腹に、
「こんなの歌って大丈夫なの!? 怒られるんじゃないの?」
とのちに感想を述べた友人の心配が見事的中し、当時、一定数の方にその歌詞の真意が理解されず、「ジョン・レノンを冒涜している!」と批判され、『拝啓、ジョン・レノン』は一部の放送局で放送禁止になってしまったのでした。
私のTwitterのタイムラインを賑わしてくれた作品
本日は、『一人称単数』(村上春樹 著)をご紹介します。
2018年7月から2020年2月まで『文學界』に掲載された7編に書き下ろし1編を加えた、主人公が一人称単数の8編からなる短編小説集。
小説としては3年ぶり、短編小説集としては6年ぶりの刊行です。
その2020年の刊行当時、やはりというか流石というか、私のTwitterのタイムラインを魅力的な読了ツイートで賑わしてくれました。
素敵な装丁も相まって、私の読書欲が掻き立てられたことは言うまでもありません。
著者の頭の中を覗いているような世界観
表題作を含めこの8編の物語は、どれも"これは小説なのか? 実体験なのか?"と思考が混乱するくらい、異次元の世界に落ちたような、著者の頭の中を覗いているような不思議な世界観を持つものでした。
読みやすく、流れるようにページをめくってしまえるのですが、そのひとつひとつの余韻を噛み締めていると、筆舌に尽くしがたい複雑な後味と謎が残ります。
私はその物語たちの中でも特に、ファンタジーとミステリーが混在する、温泉宿で働く猿の身の上話『品川猿の告白』と、東京ヤクルトスワローズへの愛が溢れる、8編の中では趣きが異なる物語『ヤクルト・スワローズ詩集』が面白く感じられました。
今後、ふとした瞬間に自分の名前を思い出せなくなったら、とりあえず品川猿のせいにすることにします。
それはさておき、もしかしたらこの作品は、読み手の年齢や経験の程度によって読後感が大きく変化する短編小説集なのかもしれません。
そう考えると、次に思い立って読み返す時が楽しみです。
P.S.
本日、プロ野球の日本一を決める日本シリーズの第6戦がほっともっとフィールド神戸で行われます。
これまで、セ・リーグ優勝のヤクルトスワローズが3勝で日本一に王手をかけ、パ・リーグ優勝のオリックス・バファローズが崖っぷちから2勝目を挙げ追いすがるという、全野球ファンには堪らない白熱した試合が繰り広げられています。
さて、どちらが日本一になるのでしょうか。(11月27日 12:00現在)
先ほど、延長12回の激闘を制して東京ヤクルトスワローズが日本一になりました。
おめでとうございます。(11月27日 23:15)