【読書感想文】 鳥への愛情が溢れる抱腹絶倒の自然科学エッセイ 『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』
もう何年前のことになるのでしょうか。
桜も散った春のある日の早朝、まだまだ夢の中にいた私は、得体の知れない何かの聴いたことがないけたたましい鳴き声で目を覚ましました。
寝ぼけ眼で窓のカーテンをそっと開けると、窓手すりに止まっている黒っぽいそこそこの大きさの鳥の影が見えます。
窓にはぼこぼこした特殊な加工がされたガラスがはめ込まれているので、影しか見えないないのです。
それならばと窓を開けるとすぐ飛び去ってしまい、一向に正体は分かりません。
しかし、窓もカーテンも閉めて間もなくすると謎の鳥はまたやって来て、筆舌に尽くし難いけたたましい声で鳴き始めます。
そんなわけで私は結局、布団を頭からすっぽりと被り、「ぐぬぬぬぬ…」と悲痛な唸り声を上げながら、謎の鳥が居なくなるまで耐えるしかありませんでした。
この苦行はかれこれ1ヶ月ほど続き、謎の鳥は梅雨の前には次なる地へ飛び去って行きましたが、もしやと思っていた翌年の同じ頃に再びやって来て、その変わらぬ底抜けに元気な鳴き声にまたもや私は苦しめられました。
しかし、この年以後、謎の鳥がやって来ることはありませんでした。
私はその理由を、謎の鳥が天寿を全うしたか、どこかの地で不慮の事故か事件に巻き込まれたのだと推察しています。
「恐竜が鳥です!」
本日は、『鳥類学者だからって、鳥を好きだと思うなよ。』(川上和人 著)をご紹介します。
著者の川上和人先生は、NHKラジオ第一とNHKワールド・ラジオで放送中の『子ども科学電話相談』に出演する鳥についての回答者で、大人のおともだちからは"バード川上"の愛称で尊敬されている鳥類研究のスペシャリストです。
そして、同番組で共演している恐竜研究のスペシャリスト、"ダイナソー小林"こと小林快次先生との掛け合いは、大人のおともだちの心をときめかせる番組の名物となっています。
代表的なものは、「鳥と恐竜の境目はどこですか?」という小さなおともだちの質問を発端に勃発した
「恐竜が鳥です!」
「いや、鳥が恐竜です!」
論争。
小さなおともだちを置き去りにして場外乱闘を繰り広げ、お互い研究者の矜持で一歩も引かなかった様は名場面のひとつとなり、今や番組のお約束になっています。
タイトルとは裏腹の鳥への深い愛情とフィールドワークの過酷さ
この作品は、火山やジャングル、無人島、どんな場所にでも出張する鳥類学者の知られざる毎日を綴った自然科学エッセイ。
反逆的なタイトルとは裏腹に、鳥類への深い愛情と想像を絶するフィールドワークの過酷さがユーモア溢れる文章で楽しく綴られています。
読み進めるにつれ鳥類への興味がそそられたと同時に、隙あらば笑わせてやるという意気込みに満ちた著者の語彙力の高さに感服しました。
やはり、有能な研究者になるには、アニメや映画、音楽など幅広いジャンルの知見も持たなければならないのでしょうか。
"先生、寝る時間あるのかな?"と若干心配になるくらいです。
それにしてもフィールドワークはかなりの体力と精神力と知識、さらにそれを上回るほどの情熱や探究心、好奇心が必須なのだと感じ、そして、生態系というのは想像以上に複雑で、在来種だけを守れば良いとかそんな簡単なことではないと知れたことの有意義さを噛み締めながら、面白おかしく読ませていただきました。
他のご著書ももれなく想像を超えているだろうと思うと、とても気になるところです。
P.S.
私が好きな『子ども科学電話相談』での川上先生の回答は、「もし鳥人間がいたら、学校に遅刻しませんか?」という質問の「空を飛べても遅刻するやつはする」です。
すごく真理で納得しました。