冬の夜の芭蕉【その2】。『雪丸げ(ゆきまるげ)』現代語訳
前回は、『閑居の箴(かんきょのしん)』という松尾芭蕉の短文を訳しました。
今回はそれよりも明るい雰囲気の短文(句を含む)をご紹介します。『閑居の箴』と同じ冬(貞享3年、1686年)の作と考えられています。
「雪丸げ」は「ゆきまろげ」とも言いますが、雪を丸めてころがし大きな玉をつくる子供の遊び(あるいは、その玉)のことです。
文中に出てくる曾良(そら)は信州出身の芭蕉の弟子で、『おくのほそ道』の旅に同行した人物として有名です。今回ご紹介するのは、曾良が37歳になる年(現在の年齢の数え方)に、5歳年上の師によって書かれた文です。
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曾良という人は、この(深川の芭蕉の草庵)近くに仮住まいしていて、朝に夕に互いの家を訪ねあっている。私が食事を作っている時は、柴を折ってかまどにくべる手伝いをしてくれ、夜にお茶を沸かすときには、水瓶(みずがめ)に張った氷をたたき割って、そこから水を汲んでくれる。俗世を避けて静かに暮らすのを好む性格の人で、私とは断金の契り(かたい友情)で結ばれている。ある夜、雪の中を訪ねてきてくれたので、次の句を詠んだ。
〈きみ火をたけよき物見せむ雪まるげ〉 きみひをたけよきものみせんゆきまるげ
(君は火をたいてくれ。私は君にいいものを見せよう。私が作った雪丸げだ)
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ともに句を詠み、性質も似ている親友が訪ねてきてくれた喜びを、少し子供っぽくて明るい句で表現していて、曾良への信頼と友情が感じられる文だと思います。前回ご紹介した『閑居の箴』と読み比べると興味深いです。
(本文は『松尾芭蕉集2(新編日本古典文学全集71)』小学館1997を使用しています。また現代語訳は独自のものですが、訳すにあたって同書および『芭蕉文集(新潮日本古典集成新装版)』新潮社2019の訳注を参考にさせていただきました。記して感謝申し上げます)