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学びはやっぱり日常にあり!

人生、生活パターンが完全一致する人間はいない。だから自分以外の人の日常を生きてみたくて想像してしまうことが時折ある。

そのアイデアを本の登場人物から貰うことも多々。なぜなら、本の登場人物の多くが日常で劇的な事象に巻き込まれるから。リア充の確率が高いのである。

でも"変わり映えのしない日常=つまらない日常"と思ってはいないだろうか?私は当初、そう思っていた。しかし、変わり映えのしない日常の中にも小さな変化はあるし、大きな変化がないことを幸せに感じられることもあると気がついた。

今回はあえて、変わらぬ日常を生きる登場人物が出てくる本をまとめてみた。なのに意外と刺激的というか彩りを感じられるラインナップとなった。

小説だけではなく、よりリアルなエッセイもリストに入れてしまった。でも、そちらの方が何故かフィクションっぽかったりして、それもまた面白い発見だった。

🍈シェニール織とか黄肉のメロンとか

完全無欠の普通な人生を送っている人なんていない。だから三人娘(昔は、だけど)は読者の誰しもと被るところがあって、理恵なんかは破天荒だけど親近感があった。

でも何処かがオシャレでセックスアンドザシティみたいだった。個人的には民子の生活が気になるし朔とあいりの関係性が好きだった。

🦜鳥たち

あとがきで著者本人がタイトルに触れ、ハッと気がついた。マコと嵯峨の感性には読んでいて着いていけない部分も多かったが、その理由ともなるかもしれない。

それはバックグラウンドが普通ではない、恐らく普通の人から見れば、不幸の分類に入るであろう2人が幸せそうに寄り添い暮らす姿は遠い国から来たのに、世間知らずな、謂わば鳥籠の中のオウムのようでタイトルにぴったりだった。

ただ普通には定義がないから、2人の生き方は2人が幸せであればそれでいいと思う。

綺麗なのにどこか力強い背中

🍛わたしたちは平穏/ワタシノミカタ

『恋と食べもの』新潮2023/9より、2つの作品を選んだ。

「わたしたちは平穏」は事実婚カップルの日常を描いた作品。平穏な日常だが、女性には彼の(多分)前妻の霊が見える。"見える日"には規則性があって、決まって男性が"コッテリとした食事を作った日"と女性は気づく。なお、男性は月に数回だけ、コッテリ料理を突然作る。

実はカップルの2人ともが普段はあっさりとしたものを好むため、この予期せぬコッテリ料理が日常に不穏な兆しを見せる。しかし結局、料理を作る理由も、それと霊の関係性も話の中では明かされない。しかしその"なんとなく"とか"あやふや"の雰囲気がリアルな日常を表していて、平穏なのに不穏でスリルを感じて面白かった。

対して「ワタシノミカタ」は、私が大好きな古内一絵さんのお話だ。古内さんは他に「マカンマラン」や「最高のアフタヌーンティー」を書いている。どれも食べ物の話。

そして今回も面白かった!

40代漫画家女性かつシングルマザーが20代男性アシスタントに恋する話で、それこそ漫画みたいなエピソードだがその"漫画みたい"というイメージがミソだと思う。

つまり、人はなぜ他人の恋愛に口を出して、その恋はあり得ないとかあり得るとか言うけれど、恋愛にだけは普通がないということ。人と人のぶつかり合いには正解がないからだと思う。

また恋をすると何かと理由をつけたがるのか、と考えさせられた。恋する心は結局、勢いなのかも。

🥊展覧会いまだ準備中

コミカルでアニメのような表現が時折見受けられたのが気になったが、登場人物を麗子像やボテロ、エゴンシーレなど、アート好きならばイメージしやすい例えで面白かったし、作者のアート好きが少し垣間見れたような気がした。
オタク目線で考えるとこのコミカル表現はリアルかもしれない。

ただし、物語はアート作品ではなく、どちらかというとお仕事小説。主人公はキャラが強いようで、社会人の誰もが共感できる等身大の部分が確かにあった。

主題は"主人公の学芸員としての成長"でブレてはいないが、アニメっぽさがあるストーリーならば、寧ろもう少し、キーとなる羊の絵の作者の霊(侍)とのシーンが欲しかったと思った。でもお話のその後がとても気になる作品。

🖼️青いパステル画の男

作者の物語はこれで3作目。「赤いモレスキンの女」や「ミッテランの帽子」に続く形だが本作が処女作だという。

読んでみてまず思ったのは、読みにくい!ということ。恐らく、テキストを降りてくるままに書いたのだと思うが、かなり突っ走ってる感があった。

ただ、アンティークが幾つもの人生を持つように、主人公も別の人生を生きる姿はツッコミどころが多いものの美しいと感じられた。

主人公が変哲のない人生を歩んできたところで突然の出会いをするところに読者は興奮すること間違いなしだし、宝くじに当たるくらいありえないのに、その前の日常の描き込みがあるからこそ、しっくりきてしまってすごい。

表紙が素敵

🧠BLANK PAGE 空っぽを満たす旅

内田也哉子さんと16人の著名人たちによる、1対1の対談集。相手によって対談形式が違うのが面白い。中には電話越しなんてものも。也哉子さんは、いつも人を俯瞰的に見てしまうと言っているが、そのせいかインタビュアーの素質というかナチュラルに深い話を引き出していて凄いと思った。

印象的なインタビューを2つ紹介しようと思う。まず養老孟司さんの話。也哉子さんもそうだが、家族の死を前に泣けなかったという。魂が抜けた亡骸に畏怖を抱くという感情から、というのは私にも理解できた。

私の場合は祖父だった。式の最中には全く涙も悲しいという感情も無かったが、終わった直後に会場の面々がバッと立ち上がって動き出したのに祖父だけが棺桶の中でモノのように寝ているのが怖くて泣いた。私が突然、式の後に泣き出したことに対して親族は皆、私が祖父とのエピソードを思い出して感情的になっていると思い、慰めてくれたが、そういうことではなかった。だからなんだか後ろめたさがあったことを覚えている。

次に中野信子さん。脳科学者としてのお話かと思いきや、意外と生活感のある話が繰り出されて面白かった。何事も突き詰める方だからこそ、掴みどころのない素敵な夫もいらして素敵だなあと思った。夫婦関係については中野さんも也哉子さんも絶妙な距離感を上手く保っていて空気感に憧れた。

本作のタイトルにもあるように、也哉子さんは両親の死をきっかけに空っぽになってしまった心を埋めるべく、インタビュー企画を行ったらしいが、彼女にとってアイデンティティに関わってくるご両親の不在はかなりの影響があったようだ。でも彼女自身、ご両親に関係なくとても深い人なのだと文章を読んでよくわかった。何よりも文体が美しく驚いた。包み隠さない、時に野生味も感じられるスタイルなのに上品な感じ。恐らくそれは彼女の純粋さにあると思った。

🚃となりの脳世界

村田沙耶香さんのエッセイ。特に「わん太の目」好きだった。ぬいぐるみの愛らしさと怖さって紙一重。それに大人って子どもを全く理解できてない!と子ども時代に思ってても、自分が大人になれば、すっかり"ワカッテナイ"側になってるんだなと思わせられた。

村田さんの観察眼といい意味で思い込みの激しい性格が生活を彩っていて、それを上間見て楽しい気持ちになれた。

また名作、「コンビニ人間」に至るまでのコンビニ愛の狂気と、歌舞伎町のコンビニの異次元感・怖さに震えた。リアル、ブラックナイトパレードのコンビニ。

頭空っぽ

🥣図書館のお夜食

同じ本でも誰が所蔵していたかで価値が変わったり、ストーリーが本という有形商材になった途端に売り物になる。

本作では、ある夜のみ開館し故人の蔵書を保管している稀有な図書館を舞台としていた。中には著名な人の所蔵もあって、古本屋ではなく敢えてこの図書館に本を寄付する故人や遺族のストーリーを追う内容。しかし同時に図書館員たちのバックグラウンドも明らかになっていき、"夜"の図書館らしく秘密めいた雰囲気が漂うところが良かった。

実はタイトルのお夜食についてはそこまで深く書かれていないが、小説の中に出てくるメニューを図書館員たちが賄いで食べるシーンが度々あり、章のタイトルにもなっていた。各章がどんな結末になっても賄いをみんなで食べるとすっとエンディングを迎えられた気がした。また本の虫にとっては食べてみたくなるものばかりでワクワクすること間違いなし。

🍨泣きたい夜にはアイスを食べて

夜にアイスを食べるのは「ごほうび」感がある。だからいいことがあった時とか頑張った時のイメージしか今までなかった。この本と出会ってからは、辛い時に自分を奮い立たせるために、アイスを食べることがあってもいいんだと少し甘やかしたくなった。

就活がうまくいかない女子が主人公の章では、偶然に夜のコンビニで出会った同級生の平田がかっこ良すぎてキュンときて印象的だった。

意外に読みづらい早口言葉、I screamed for ice cream

🧑‍🧑‍🧒山の上の家事学校

山の上にある、男性のみが通うことのできる家事学校が舞台で、様々な事情を抱えた男性が共に暮らし学んでいくストーリー。

どの登場人物も案外、身の回りにいそうだから、"家事って何だろう"というそもそもの問いを誰しもが考える必要性があると感じた。

本作を読んで、私は家事を"老若男女誰しもが避けられない仕事"と思った。だからこそ、こうしなくてはならないという決まりはなくて、生きるために工夫のしがいがあるもので、自分に合うやり方を見つける必要があると思った。

ただ今、生きるために1番必要な家事が、外で稼ぐ仕事よりもおざなりにされることが多く、それは間違っていて、家事もどんな仕事にも優劣はつけられないと気付かされた。

社会人になって、自分で仕事で稼げるようになってくると"家事<仕事"になりがちになるので、人間力をつけないといけないなと思った。

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