詩『新大阪駅26番線ホーム』
「またどこかで」を言おうとして
ドアが閉まってしまったんだ
別に言いたくなかったわけじゃない
勇気がなかったわけでもない
君に恐らくもう会えない未来を
心が認めたくなかったんだろうな
2人が選んだ片道切符だから
それ以上は何も言わないって決めていた
肌寒い朝のホームに立つ君の手を
そっと優しく握るだけにしておくんだ
もっと遠くまで彼女を連れて行って
いっそ遠くまで彼女を連れて行って
僕が影も形も見えなくなるぐらい遠くまで
彼女の未来よりももっと明るい方へ
ねえ、君が幸せなら僕はそれでいい
でもせめて夢は叶えてほしい
そしたらもっと僕も幸せになれるから
君の分までこの場所で生きる気になれるから
知らない街で彼女は生きるんだって
知らないヒトと彼女が生きるんだって
僕がどれだけ手を伸ばしても届かないところへ
彼女にもまるで予想のできない未来へ
ひとり残された白線の内側で
僕は東京方面をじっと見つめ続けた
緩やかなカーブの向こうに望みが吸い込まれて
流れるように消えてく車体
僕はそれに透き通りそうなほど
眩しい祈りを乗せてみるんだ
[了]