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#174 日常のなかにつくる非日常
週末、同居中の次男が三泊四日で兄に会いに行くために家を開けた。
「弁当作ってくれる?」と私に頼んでおきながら、例によって6時間かかる兄の元に「着いた」とも、ましてや「弁当美味しかった」などとメールが来るはずもない。(笑)
そのくらい愛想のない男が居なくなって、家の中にほんの少しだけ、緩んだ空気が流れる。
そう、夫と私は夕飯時に「(次男が)居るのは嬉しいことだけど、無愛想すぎてちょっと疲れたね」と言って笑った。(おかしなものだ。イギリス⇔日本と離れていた一年半はそりゃあ寂しかったというのに‥‥)
あろうことか、老いてきた私たち夫婦の方が「鬼の居ぬ間に‥‥」とばかりに、羽を伸ばしたのだ。
親の居ない間にティーンエイジャーがここぞとばかりにやりそうな、友達呼んで音楽かけてパーティー‥‥とはならないまでも。
二人でワインを開け、塩麹に半日浸かったステーキをミディアムレアに焼く。大して普段と変わらない‥‥
なのに、なにを考えているか分かりにくい人間がいないことでなんだかホッとして、ゆっくりと食事を楽しんでいたのだ。
ああ、考えてみたら、嫌だ寂しいと思いながらも、夫婦ふたりの生活のペースというものが出来上がっていたんだな、と逆に納得させられている。
薪ストーブはキッチンにあるのだが、ダイニングテーブルとの間の畳2畳ほどのラグの上にキャンプさながらに布団 (はないので、のようなもの) を敷いた。
光熱費爆上がりのイギリスでは、節約のために普段十分に暖かい寝室で寝ているとは言えない。
燃える火の暖かさの前で、子どもならともかくね‥‥などと自嘲しながらも愉快な気分で二晩キャンプした中高年の私たちだ。
火の脇で栗を炒って食べたり、ちびちびリキュールを啜ったり、キッチンだからすぐに叶うのもいい。
楽しかったわ〜
息子は帰宅してからも兄のところで何をしてきたのか特に話すでもない。想定内である。
兄のほうから「楽しかったよ〜」と電話報告が入る。
月曜からはまた、週末のことなどなかったかのように仕事に行く夫と息子。息子にとっての束の間の安心できる場所、それが今の私たちなのだと思っている。
週末、家じゅうの布団のようなものをずるずる集めてきてキッチンに敷いたこと。お金もかけない遊び心で、なんならセントラルヒーティング代を浮かせたくらいだ。
日常の中でやらないことをやってみたらなんだか楽しく、そしてリラックスできてしまった。
ただ、親のこのような素行は、息子には黙っていようと思う‥‥
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