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第三章 蓮峯山の小さな楽土 ……日本の洪水伝説。 洪水伝説とは、世界中の諸伝説に多く…
「えーっとね、蓮峯山の山々の間にある湖には、竜が住んでいる。池に大蛇が住んでいる」 「い…
聞いても楽しくないぞと、飛雨はつぶやいた。 飛雨は、戦国武将の家臣の家の出身で、生ま…
「……ここまでにしよう」 長い沈黙が続いたあと、ふいに飛雨がいった。窓にもたれていた体…
少女は中学生くらいだった。 かわいらしいという表現がぴったりの子だ。かなり華奢で、長…
飛雨が降りたのは、木々の間に点在する岩の中で、一番大きな岩だった。 彼は『重かったー…
風花たちは、森の東を目指していた。 飛雨は忍者のように、枝にぶら下がったり、幹を蹴ったりしながら進んでいく。 スーフィアは宙に浮かんでいた。 風花は、夏澄に横抱きにしてもらっていた。 お姫さま抱っこだ。 夏澄はその体勢のまま、スーフィアと同じように宙を舞っていく。 飛雨の米俵扱いとは、天と地の差だ。 足手まといとは思いつつ、風花はぽおっと運んでもらっていた。 「寒くない? 風花」 夏澄の青い瞳が覗き込んでくる。きらきら煌めいていた。 「全然だい
空気が痛い……。 風花たちは、山頂に続く坂道を歩いていた。 さっきまでは、笹原や枝…
「この鳥も、引き取って欲しいってことでしょ。今回は例外ってことでいいじゃない」 スーフ…
それきり、飛雨はなにもいわなくなった。 ありがとう、と、夏澄が風のようにささやくのが…
風花は、山頂の岩場を歩きまわっていた。 岩影を覗いても、木の周りを探しても、どこにも…
眉間にしわを寄せ、飛雨は岩の上に寝転がっていた。 ずっと黙り込んで、宙を睨んている。…
……懐郷。 風花の中に、そんな言葉が浮かんでいた。 夏澄の手をすがるように握り返す…
過去に想いを馳せ過ぎたのか、かすかな目まいがした。 風花は頭を振る。 となりの夏澄は、ずっとなにもいわない。ただじっと、春ヶ原を見ていた。 あの飛雨でさえも、まぶしそうに瞳を細めている。 「気に入っていただけましたか?」 優月は足を踏み出す。 風花はうなずいた。 「ではこちらへ。と、いっても、もてなすようなものは、なにもない野原ですが。休息の場だけはあります。……ただ」 優月は一度言葉を止めた。気遣うような瞳をする。 「水路は平気ですが?」