水の空の物語 第3章 第11話
風花たちは、森の東を目指していた。
飛雨は忍者のように、枝にぶら下がったり、幹を蹴ったりしながら進んでいく。
スーフィアは宙に浮かんでいた。
風花は、夏澄に横抱きにしてもらっていた。
お姫さま抱っこだ。
夏澄はその体勢のまま、スーフィアと同じように宙を舞っていく。
飛雨の米俵扱いとは、天と地の差だ。
足手まといとは思いつつ、風花はぽおっと運んでもらっていた。
「寒くない? 風花」
夏澄の青い瞳が覗き込んでくる。きらきら煌めいていた。
「全然だいじょうぶだよ、夏澄くんは?」
「だいじょうぶ」
風花がわらいかけると、夏澄は微笑みを返してくる。
夏澄のやわらかい髪が目の前で揺れる。風花はますますぽおっとなった。
一番前にいたスーフィアが、ふいに振り返った。
宙で止まって少しもどり、岩にかがみ込んで、地面を覗く。
夏澄たちに手で合図した。
「どうしたのかな?」
「ここからは見えないけど、精霊がいるよ。気配がするから、分かるんだ。霊力がちょっと、……かなり弱い精霊だね。どんな仔か分からないけど動物が一緒にいるよ」
スーフィアが覗いているのは、岩影だった。そこには、小さい赤い花が岩と岩の間いっぱいに咲いていた。
雪割草だ。
その雪割草の横に半透明の女性がいた。雪割草の精霊だろう。
裾が花模様の白い着物を着ている。
横すわりして、ひざの上で眠る茶色い生き物を撫でていた。たぬきかと思ったが、あらいぐまだ。
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