【しゅんしゅんぽん】夏の盛りに君を想う
⭐️この曲をBGM🎧にして読んで頂きますと、雰囲気が出るかと思われます
遠くから花火の音が聞こえてくる。ビールを片手にベランダに出てみると、川の方で大きな花火が上がっている。色とりどりの大輪の花がパッと開くと、しだいにその大輪の花は萎んでいき闇の中に残光だけが残っていった。
その花火に、彼女の顔が重なっていく。
また今年も夏の盛りがやってきたのか。彼女のいない夏がもう何回きたのだろう。僕は、夏が来るたびに彼女と過ごした夏を思い、赦されてしまったやるせなさを抱えて、何回も思い浮かべたあの夏をやっぱり今年も思い浮かべてしまう。
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あの夏の日、僕と彼女は花火大会に来ていた。よく晴れたとても暑い日で、夕方5時を回ってもまだ太陽は容赦ない日差しを僕達に浴びせた。彼女は藍色の浴衣を着ていて、それが上品さを醸し出していてよく似合っていた。どこかから蝉の大合唱も聞こえてくる中、汗ばんだ首筋と髪を高い位置で結い上げたうなじの後れ毛がなぜか色気を感じさせて、僕はドキドキしてしまう。胸のドキドキと暑さで汗が体中から噴き出てしまい、慌ててバッグからハンドタオルを取り出した。
「こんにちは。はじめまして、かな?」
彼女は戸惑いがちに僕に笑顔を向けた。
「こんにちは。なんか不思議な感じだね。ネットでは、いつも親しくしているのにね」
僕も彼女にちょっと困ったような笑顔を返した。見つめ合った僕達はくくっと笑い、その後大きな声で笑い合った。これで最初の緊張はお互い溶けたようだ。
僕達はインターネットのコミュニティで知り合った。コメントで話すうちにお互い好感を持ち、いつしか二人きりの会話を楽しむようになっていた。文字だけでの交流とはいえ、そこには人柄などもにじみ出る。毎日、彼女との交流の時間が僕は楽しみで仕方なかった。その時間を楽しみに、僕は日中の仕事にも精を出した。
そんな時間を重ねるうちに、二人の間には愛情が芽生えてきた。顔も素性も何も知らない、そんな人に恋をするという初めての事に自分はどうかしていると思った。それは、彼女も同じだったようで、こんなメッセージを送ってきた。
“私、あなたの事が好きになってしまったみたい”
彼女も僕の事が好きになったというのか。お互い気持ちが通じ合ったのは嬉しい事だが、ひとつだけ問題がある。それは、彼女には婚約者がいた事だった。
けれど、恋をしてしまった僕達には、もうそんな事は関係ないほどにお互いを必要としていた。やり取りを重ねるうちに実際に会ってみたいという思いが募り、今日初めて彼女に会う事になったのだ。
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軽く食事を済ませ、花火が始まるまでの間、僕達はたくさん話をした。小さな頃の事や好きな事、お互いの事を知っていこうとするこの時間が僕にはたまらなく愛しく思えた。
程なくして、花火が次々と上がり始めた。
闇に咲く大輪の花のような花火を見ていると、まるで僕達のようだと思えてならなかった。今の僕達は、この花火のように気持ちが燃え上がって熱くなっている。でも、この恋の着地点はいったいどうすればいいのだろう。何も考えずに突っ走れるほど僕達は子供ではない。
「花火、本当にきれいね。今日はあなたと花火が見られて良かったわ」
彼女はうっとりとした顔で夜空に咲く花火を見ている。その横顔を僕はただ見つめる事しかできなかった。
花火大会が終わると、僕達は手を繋いで歩き始めた。
「これからどうする?」
「私、あなたと一緒にいたいな」
「いいの?大丈夫?」
彼女は返事をする代わりに、繋いだ手に力を込めた。
その晩、僕達は夜通し愛し合った。お互いを刻み付けるように、永久に忘れる事の無いように、僕達は肌を重ねて愛し合った。この時間が永遠に続けばいいのに、そう思った。
「もっと早くに君と出会いたかったよ。僕はもう引き返せなくなってしまった」
彼女を抱きしめたら、ふわりと金木犀の香りがした。
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花火のような恋は、花火のようにパッと咲いてあっけなく散ってしまった。
彼女は、婚約者と遠くに行ってしまったのだ。
彼女とは花火大会の後に何回か会ったが、最後に会った時に今度は僕がそっちに行くからと言ってハイタッチをした。その約束は、いまだ守られていないままだ。
僕はあれから何かを失ったまま時を過ごしている。その空洞はどうしたって埋まらない。もちろん彼女以外の人と恋もしたが、どれも長くは続かない。だけど、そのうち彼女より愛せる人ができるかもしれないと思ってはいる。
いつか、この先お互いを懐かしいと思える頃にまた彼女と会えたらいいと思う。今度は、花火の頃ではない時に。
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しゅんしゅんぽんに参加します💛
今回は短歌を使わせて頂いています。
しろくまさん作のしゅんしゅんぽんのPR動画です。
キャラクターが勢ぞろいでかわいいですよね💕
🌈今回短歌を使わせて頂いたみなさんです
ぽんに登場順でのご紹介となっています!
🍦 十六夜さん
封じたる想いは深くあの夏の
闇に溶けたる花火の残光
🍦 砂の三郎さん
赦されてしまった
夏のたそがれが永遠になる罪を背負って
🍦 okonaさん
浴衣きた きみのうなじの 後れ髪の
あせばむ肌に 鳴きやまぬ蝉
🍦 リコシェさん
突然に花火のようにぱっと咲き
着地点だけ見えない恋だ
🍦 ぱんだごろごろさん
引き返す勇気があれば良かったと
俯きながら抱きしめる人
今回も、一覧にまとめて頂いている作品の中から、じーっと見つめて5首選びました。
ぱんだごろごろさんのお歌をメインにして、儚くて美しい花火を絡めて書いてみました。
すると、なんとなくケミストリーの歌っぽいなぁと思って、最後に一文入れました。
作品を使わせて下さったみなさま、ありがとうございます😊
回想の部分が若干昔っぽいのは、スマホが普及する以前の設定だからです。
パソコンでメッセンジャーとかやっていたあの頃のつもりでございます❗️
金木犀の香りは、個人的に好きなロクシタンのオスマンサスです。
邪道ですが、補足とさせていただきます。
過去にぽんでショートショートを2つ書きましたが、今回のも含めてこんなのばかりだなぁと。
まぁ、こういう作風の人だと思って頂けましたら(;^ω^)
今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪
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