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君の知らない君の詩

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自作。思い入れのある、手紙のような詩。 マガジンのタイトルは、ASKAさんのアルバム名のもじりです。
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記事一覧

詩「桃幻郷」

空は遥か
君は遠い

手を伸ばしても
何も届かぬ袋小路の中で
残された日々の虚しさに
苦笑するほどの力もない

人と人とが巡り会う
奇跡の上に成る力というものが
もはや私にはない

私の見る世界を
君に届くことを願うけど
響くのは 私の足音だけ
それが これ程私を無力にするのか

素知らぬ顔して過ぎる日々
穏やかな景色
世界は遠い

それでも 歩まねばならぬ
私の僅かな 精一杯の力で
遥か先にある

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詩「ひとりがたり」

僕は
僕が僕だと 自信を持って言うことができない

細胞も記憶も感情も 朽ちては入れ替わる
僕を 僕だと証明するものは 何もない

生きながら流転する みじめで 愚かな 一個体

君と僕とに どれほどの違いがあるだろう
君は不確かで 何の証明もできないように思えるけれど
僕の方が 充分 不確かな存在ではないか

どうか 僕の体を引き裂いて
たとえ 僕が不確かでも
君が不確かでも
僕の中の君だけは

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詩「花束」

扉の向こうで
君は笑って手招きする

書いた言葉の拙さに 苦笑しながら
私は 今日の扉を開く

きっと明日は
知らない花を見つけよう
知らない道を探してみよう
君に まだ知らない景色を 見せたいんだ

探していたのは 君の言葉
今でもいつも 胸にある
他のものは何も この手の中に残っていなくても
そのひとつのために 生きてゆこう

君が私の背中を押すから
私も君に 新しい季節を送るよ

私が辿るす

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詩「箱」

僕をここに迎え入れて
君の近くに居たいんだ

この音楽が止むまでに
僕の心が 日常の中に埋没される前に
この手の中の 僅かなものと
さよならをしてしまいたい

記憶はゆっくりと退いて
僕の存在を不確かなものにさせていく

細胞が入れ替わって
僕が 僕だという
君が愛した 僕だという
証が消える前に

どうか僕を迎え入れて
そうすれば 永遠に
永遠に さよならを捨てるよ

追伸
The Smiths

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詩「ピエロ」

僕は永遠の魔法の時間の中にいる

と言い切れるだろうか

君は
夢であり 魔法であり
そしてどこまでも 重い現実だ

一生分の孤独と引き換えに
君への愛を誓う
誠実の仮面を被った 貪欲さで

こんな眠れない夜には いつも君のことを思う
堕落を貪って そこから抜け出せないように
君を見つめている

こんな気持ちは
きっと 愛とは呼べないだろう

 

誰の評価も欲しいわけじゃないけど
僕の心が誰かに

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詩「闇」

この扉を開ければ
暗闇の世界が待っているだろう
そこに  「私」は存在するのだろうか

貴方がいる場所は
寒いだろうか
冷たいだろうか
こちらへと手招いても
貴方は寂しく笑うだけだった

それさえも 記憶の影なのかもしれない

今日のところはお別れ
闇を抜ける その日まで
永遠が ないのであれば
私も貴方と共に 闇に帰るまで

かげろう

私は迷いの中で生きている
必要なものほど 不確かで
大切なものほど 目には見えない

手の中の希望は
打ち捨ててしまえば きっと 楽になれる

無知であるということは 眩しい程に幸福なことだろう
それであるのに
いったい 何を知るために
何を得るために

明日 私の心が
打ち砕かれないとは限らない
そんな日々の中でも

いつか 私が焼かれる時
骸の奥底に沈んでいるだろう君のために
未だ希望は捨てら

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形のないもの

形のないもの

雨の日は 心が遮られるようだ

形のあるものと形のないものに どれほどの違いがあるだろう
形のないものなど 存在しないのなら
僕の心など この世のどこにもない
僕の考えたことなど 何の意味もない

この世の不純物を飲み込んで
僕はまた 君よりもずっと 汚れていく
洗い流す術もない

空があんまり意地悪をするから
僕の心は宙ぶらりん
君はきっと 心配そうな瞳をして
僕の顔を覗き込んでいる

あしあと

あしあと

私は 変わってしまった 
共有できるものは もう何もなくなってしまった
無邪気に 無知でいられた頃には
二度と戻れない

時は私を押し流して行く
心だけを置き去りにして

変わっていくのも 君だよと
足跡すべてを あなたが愛してくれるのなら
 私は望んで
変わりながら 生きていこう

たとえ 地中に埋められても
変わらぬ心を友として

陽だまりのふたり

陽だまりのふたり

あなたは見ていただろう
思い出とともに 自分自身さえ消え去ってしまいたいと願っていた私を
形に残ることなく いずれ消えるのならば
何もなかったことと同じだと
私は信じ込んでいた

長い冬に凍て切った心だからこそ
気づいたことがある
形あるものよりも大きな 思いがあることを
繋がりあう思いが 私を生かしていることを

流れぬ季節の中で 
春の陽だまりのような 私とあなたがいる
いずれは私も 形なく消

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幻

意味もなく 言葉を書いて
揺れながら 今日を生きてく

届けたい 言葉はあれど
手紙にさえなれぬため息

移りゆく 季節の色の
彩りも遥かに霞む

あんな日は 二度とあるまい
あんな日は 二度とあるまい

追伸
フォローさせていただいている方の長歌の作品を見て、私も書きたいと思って書いてみたのですが…
結果的には五七調の定型詩になってしまいました。

『源氏物語』が好きで、最近は「幻」の巻について

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また来ん春

また来ん春

また来ん春と人は言う
何を言おうか 早や春は
すでに私を追い越して
遠く届かぬ 夢の中

思えば桜の木の下で
君と出会った春の日に
花は俄に匂い立ち
世界は色づき息づいた

詰まらぬ話も 頷いて
笑顔をくれた 君は今
月の光の影の差す
森で息を潜めてる

この世の地獄というものを
なんにも知らぬ顔をして
また来ん春と 人は言う

また来ん春と 人は言う

追伸

中原中也氏の「また来ん春」という作

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失くしたひとかけら

ひとりひとりに
失った 時間
失った場所
失った人があり
それぞれ痛みを抱えて生きているけど
きっと 永遠に分かちあうことは出来ない

それでも
私の
言葉 動き
誰かに対する 手の差しのべ方にさえ
そのひとつひとつに
きっと あなたがいる

きっと 誰もが──

僕だけの道

君に預けた心が
今もどこか遠くで 微かに音を立てている
果てしなく続く この道は
ただ 僕だけの道

いつもの帰り道
笑い合う恋人たち
心許し合う親子たち
しあわせの色をした 人の群れ
そんな ひとつひとつの景色に
失った未来を数えている

そんな景色を 当たり前のことだと
無邪気に信じていた あの日の僕が
何もかもが色褪せた 僕の横を通り過ぎる

悲しい時は
あたたかい雨で 君は泣いてくれるけ

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