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甘野充のオススメnote

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2022年4月の記事一覧

掌編小説 通り雨

ヒトミと一緒にいると、彼氏の愚痴ばかり聞かされる。「服の趣味が悪い」だとか、「わたしのことわかってない」なんてしょっちゅうだ。たしかに、ヒトミはファッション誌のモデルと言っても通用しそうな容姿とセンスだし、パートナーに要求するレベルも高そうだ。それなら、もっと感性がぴったりくる人とつきあえばいいのにと思う。きっと、候補者はたくさんいるのだから。それに、ヒトミの彼氏のことだって、わたしはずいぶん前から想ってきたのだ。 そのヒトミとショッピングのために朝から待ち合わせると、彼女

短編小説 糸を吐く

のどの奥がむずむずする。つい咳き込んだら、手のひらに何かがついた。目をやると、蜘蛛の糸のようなものが細く光っている。つまんで捨てようとすると、糸の端はまだわたしの中にあり、口からつるつると伸びて手にからみついた。 糸はきまって、恋人がそばにいないときに出た。 「今、どこにいるんだろう」 「何をしているのかなあ」 会社員のわたしよりも七つ年下の聡は、まだ学生である。自転車で十分ほどのところにある大学に通いながら、近くの小さな喫茶店でアルバイトをしている。 もともとは、彼

【短編小説】「ロザリオ」

 日曜礼拝のあと、僕は教会の前に流れる小さな川を眺めていた。川は透き通っていて、きらきらと光る小魚が見える。  今日は神父の話も上の空で、讃美歌も歌う気になれなかった。終始ぼんやりしていた。 「あなたのせいよ」母親はいった。  実際、誰のせいでもない。病気が進行し、父親は亡くなったのだ。    父親に病気が見つかるまで、両親はふたりで仲が良くとはいいがたいが(実際、口論が多かった)、慎ましやかに暮らしていて、僕が美術大学を卒業し、就職して家を出てからも、とくに寂しいともいわな

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再生

『ITAWARI』癒しピアノBGM【即興・オリジナル】Healing piano BGM

『クリスマスローズ』 花言葉は「いたわり」「追憶」「私を忘れないで」「私の不安をやわらげて」etc 日本では、「合格」の意味もあるそうです。 そんな花言葉をイメージして作った曲です。 優しい曲に仕上がりました。どうぞ🍀

単色イラスト『ひと色展』

ひとつの色から、 イメージする子をひとり描く… 透明水彩絵具をもっと知りたくて、 遊ぶように描いていた単色イラストたち。 現在32色、 そのひとつひとつに思い入れがあります。 濃淡で色味が変わる子、 変わらない子、 粒子の動きが面白い子、 広い面にすぅっと伸びる子。 このイラストたちがきっかけで  noteで出会えた方も多かったです😊 そしてこの度 この単色イラストたちの原画を、 金沢にし茶屋街入口のギャラリーにて 展示させていただく運びとなりました! ◯日時 2

透明な屍体

飛行機に乗った時、私はかみさまになれた気がした。 上空から眺めるあの街の灯りひとつひとつに生活があり命があり、私もこの灯りのひとつであるのだと思うと自分が普段見ている世界がどれだけちっぽけなものであるのかということに気付いちゃったんだ。同時にこの広い世界の中で君に出会えたことがどれだけ奇跡であるかということにも気付いてしまったんだ。人が一生のうちで誰かと出会う確率は0.0004%とか誰かが言うからさ、私は勝手に運命感じて君のことを忘れられないんだ。 かなしみはいつか消えてし

【歌詞】食べた愛

どんだけたくさんの恋をしてきたって おんなじ恋はひとつもない 笑い話にした恋だってあるけど 泣ける恋だってここにある 胸焼けしそうな思い出ばかり おなかいっぱいに愛を食べてきた これからもそう食べていくだろう 変わらない日常 変わらない人生 次のあなたを ほら見っけた いつも通りの道を歩いてきたって おんなじ景色はなにもない はじめての恋を何度もできるのは 太陽さえもまた照らしてる いちじるしい そう今日も片想い 腹八分目と愛を食べてきた もう胸焼けはしたくない

堕ちる時

…ボタっ 突如発せられた銃声のような衝撃と共に 左胸付近がじんわりと赤く染まった。 もう、ダメだ。 灰色メガネを掛けると 世界がモノクロのグラデーションに映る。 黒・白・グレーの濃淡だけで成立する世界。 味も色気も熱も無い世界。 ゆっくりと深海に沈んで行くように終わりを遂げる1日の背中を、少し離れた所から眺めている。 上空を流れる曇り空親子も、心無しか俯き加減でどんよりした表情を見せているような、そんな錯覚に陥る。 漆黒の金閣寺、純白なフラミンゴ。 内側から

君からの返事に期待感を添える癖がついてしまった 君は大抵のことに裏腹な言葉を残していく 僕の言葉に命はないのかな こぼれ落ちた文字には意味など必要ないのかな 君の言葉に命はあるのかな 掬いあげる想いは手の平をすり抜けていく 僕は 君から 何を貰いたがっているのかな 溶け切れない 僕が作り上げているのは誰だろ 僕が信じようとしているのは誰だろ どこの誰なのだろう 僕は君から何を奪いたがっているのだろう

まっすぐの雨【掌編小説/ママによるあとがき】

まっすぐの雨が降っていた。⁣ 一本の線のように、まっすぐ降る雨。⁣ ざあざあと泣いているようだった。⁣ ⁣ あなたが生まれてから、まっすぐの雨に打たれることなく過ごしてきた私は、その存在を忘れかけていた。⁣ ⁣  ⁣ ⁣夕方、娘がずぶ濡れになって帰宅した。⁣ 傘を持たせたはずなのに、手に傘はない。⁣ ⁣ 私は制服を脱ぐよう言い、お風呂の追い焚きスイッチを入れ、それからバスタオルで髪や体の水気を拭き取った。⁣ ⁣ 「大丈夫? 傘はどうしたの?」⁣ ⁣ 娘は何も答えず、なんの

[ショートショート]石鹸と読書(毎週ショートショートnote参加作品)

妻と出会ったのは30年ほど前だ。 同じ会社の彼女は常に物静かで、決して目立つ存在ではなかった。 社内にはマドンナ的な存在の女性がおり、男たちはそのマドンナに夢中で私もその内の1人だった。 ある日、くしゃみをしたマドンナの隣に座っていた彼女が、箱に入ったティッシュをマドンナの机の近くにそっと置いたのを目にした。マドンナはそのティッシュを使い、周りの男たちはマドンナを心配する一方で、彼女のその行動には誰も気づいていなかった。その時から私は彼女に恋をした。それ以降、私からのアプロー

ペンギン図鑑 【ショートショート】

私はまったくのうわの空だった。 目の前にいる上司の言葉は、 右から左へ通り抜けていく風と同じだった。 私はただ、 上司のシャツに散らばるペンギンを数えていた。 上を向いたり下を向いたり、 斜めに傾いたりするペンギンの絵柄を 目で捕まえては、 私の架空の籠の中に ひょいひょい放り込んでいく。 十六羽目、捕獲。 ああもう少し腕を上げてくれれば、 次の一羽を捕まえられるのに。 「ねえきみ、僕の話、聞いてる?」 はっとしてシャツから目を上げると、 じゅっと音がしそうなほどに 上司