令和2年度の健康経営優良法人制度のポイントの振り返り
「健康経営調査票のフィードバックも返ってきたし、来年度の動きについても整理しておかないと」
こんにちは。
時間ができたので、2021年の初投稿として来年度の健康経営優良法人制度のポイントについて厳選してまとめておこうと思います。
とその前に...
なぜ僕が健康経営について記事にするのかを書いておきます。
自己紹介的なもの
私は大学卒業後、大手総合旅行代理店に就職し法人営業に従事しました。
そこで思いがけずうつ病を発症し、休職の末に退職。
これからバリバリ働いて活躍するぞ!と思っていたなか、突然、人生プランが崩れた上に社会復帰まで1年かかりました。その挫折経験から、企業でみんながイキイキと働くためにはヘルスケア支援が重要だと痛感し、企業の健康診断やメンタルヘルス対策、産業保健スタッフ派遣、健康管理システムを総合的に扱う企業に就職し、それらサービスの法人営業を行ってきました。
その後、社内ベンチャーの立ち上げに従事し、資本業務提携の調整や健康経営支援に関するクラウドシステムの商品企画に従事。その後、EAP業界の大手企業に就職し、大企業を中心に、主に組織開発を基盤としたメンタルヘルス施策に関する法人営業の他、健康経営の体制構築のコンサルティング支援を行ってきました。
健康経営の根幹部分に当たる健康診断やメンタルヘルス施策、経営トップや従業員を巻き込んだ組織開発、それらを統合管理するシステムなど、幅広く現場に関わってきた経験から、健康経営をこれから推進していこうという企業に少しでもお役に立ちたいというのが個人的な想いです。
健康経営を通じて、
企業の生産性や価値が向上されるのは当然大事なのですが、
個人的には、そこで働く人間がイキイキと安心して働けるようになってほしいと願うばかりです。
ここまで、自己紹介をお読みいただきありがとうございます!
ということで健康経営の支援を仕事にしていたので書いてみる次第です。
ではでは、令和2年度(20年10月調査票提出分)のポイントを振り返っていきます。
健康経営優良法人認定までのプロセスについて、あまり知らない人でも、
どんな感じで大変なのかなと少し覗いてみるスタンスで読んでもらっても面白いかなと思います。
令和2年度のまとめ
今年の申請企業数は、2523社(前回比+195社)。
ここ数年、某保険会社でのCMでも健康経営というワードが出たりと、認知度が上がっていますので、どんどん増えています。
多くの企業が目指しているホワイト500という冠があるのですが、全体の上位20%にランクインする必要があります。
しかも2016年からの5年間で申請企業数は3倍にもふくらんでいますので、競争率は今後も伸びていくでしょう。
僕が支援してきた企業(2,000人規模、製造業)では、初提出の前回令和元年度は1,000位でしたが、今回の令和2年度では500位ぐらいに上昇したという事例もあります。
きちっとした戦略に基づけば、ランクはそれなりに上昇します。
大学受験と同じで、それなりの必勝法に沿って活動をすれば、ランクの上昇は期待できます。
(もっとも、上位500社にランクインするには、もっと厚い壁があるのは事実ですが...)
さて、今回の調査票では、
新型コロナウィルス感染症の影響でいくつかのポイントが追加・変更になりました。来年度の調査票にも関わる部分ですので、ぜひチェックしてみてください。
令和2年度健康経営優良法人 まとめ
【施策の延期について】
今回(2021年度)の新型コロナウィルス感染症の影響により、予定していた健康経営施策が延期または中止になる事象が多くの企業で発生しました。
例えば、健康診断や階層別研修などです。皆さんの企業でも、かなり支障があったのではないでしょうか。
これについては特別措置として、「実施予定だった」ということであれば項目適合と認められる方針となりました。
(うん、優しい措置ですね)
また、調査票で取組み必須となっている項目については、「新型コロナへの対策が整いその安全性が確保された時点で速やかに実施をする」という誓約を持って項目適合となりました。
あくまでも新型コロナによる混乱が生じた今回だけの特別措置です。
次回の調査票提出までに、新型コロナが落ち着きを見せない場合でも、同じような措置が取られる可能性は低いかと思います。
今のうちにコロナで「実施予定だった」と記載した取組み項目については、実施時期や方法について見直しをして早めに動く必要があります。
令和2年度健康経営優良法人 まとめ
【感染症対策について】
新型コロナ感染症対策に関しても調査票で問われる箇所がありました。
今回はアンケート項目で実施状況を確認されるだけでしたが、来年度は追加の評価項目になる可能性があります。
(施策例)
・新しい働き方への健康課題
→健康保持、生産性向上を目的としたモニター、デスクなどの導入補助
・制度
→学校休校による特別育児休暇など
・職場の環境整備
→パーテンションの設置や換気など
・メンタルヘルスケア
→社内の産業保健スタッフ・カウンセラーなどによるweb・電話での相談対応やオンラインでのメンタルヘルスケア研修
令和2年度健康経営優良法人 まとめ
【施策の対象範囲について】
実は、今回から施策の範囲ついて変更がありました。
意外と見落とされるポイントなので要注意です。
今回、これが9月に主催の日経リサーチから発表がありました。
大規模法人部門は10月16日が調査票提出の期日でしたので、結構直前での発表に多くの企業が困惑されていたかなと思います。
次回もこうした特別措置の発表がないとは言い切れないですし、あるとしても結構後ろ倒しになるかなと思いますので、情報収集は要注意ですね。
私のように健康経営優良法人制度の調査票作成支援をしている業者と契約すると、こうした最新情報を提供してくれますので、確認漏れのリスクは減らせますし、何より安心です。調査票を作成する担当者からも「普段の業務も忙しい中で、こうした情報アンテナを張り続けるのも結構しんどい」と仰っていました。
施策の範囲の変更点について話を戻すと...
今回の変更点では、
全従業員を対象にしたポピュレーションアプローチの施策は、
少なくとも直接雇用のフルタイム従業員全員が対象である必要があると示されました。
今回の明示によって、「本社だけで実施していた」や「正社員の一部でやっていた」という形では基本的には不適合となりました。
拠点によっては、派遣社員がほとんど、フレックスタイム制のスタッフがほとんど、みたいな職場もあるかと思います。そうした拠点は、活動のカウント対象範囲に含まれないということのようです.....。
ということで、今後は、より一層、特定の拠点や部門だけでなく全社的な巻き込みが必要になってくるようです。
令和2年度健康経営優良法人 まとめ
【戦略マップについて】
今回の調査票から、健康投資管理会計ガイドラインで紹介された戦略マップの作成が追加評価の対象になりました。
健康投資管理会計ガイドライン?戦略マップ...え、何それ。
僕も理解するのに困惑しましたし、結構多くの健康経営担当者がいまだに困惑していると思います。
まずその概要について、経産省のHPの引用を紹介します。
本ガイドラインは健康経営度調査等のこれまでの取組を踏襲しつつ、企業等が従業員等のために創意工夫し、健康経営をより継続的かつ効率的・効果的に実施するために必要な内部管理手法を示すとともに、取組状況について企業等が外部と対話する際の共通の考え方を提示するものです。
本ガイドラインでは、管理会計の手法により、活動を行う費用とその活動によって得られる効果を認識するために量的・金銭的指標を用います。健康の定義は幅広いものであり、量的・金銭的指標だけでその全てを表しきることはできないものの、量的・金銭的指標によって「見える化」をすることで、個人も組織も健康をより良くするための合理的な判断や行動をとる一助となります。また、「見える化」することで、従業員・事業主・地域社会・株主等の異なる立場のステークホルダーが健康について共通の理解や認識を醸成し、対話することも可能となります。
やっぱり、行政が書く難しい表現は苦手です。笑
僕的に噛み砕くと、
・自社の経営課題と健康課題の棚卸しのためのもの
・改善のための目標と取組み内容を整理するためのもの
・健康経営活動のROI(投資対効果)を見える化して、活動の持続可能性を高めるためのもの
といったところでしょうか。
もう少し、イメージ図で読み解いていきたいと思います。
こちらの図は、経産省が紹介している戦略マップの一例です。
まず一番右をご覧ください。
「個人のパフォーマンス向上」とありますが、これは「健康経営で解決したい経営課題」となります。この企業の場合、個人の生産性に関して課題感を持っているようですね。
次にその左を見てみましょう。
「この課題が解決された状態をどのように可視化するのか」ということで「アブセンティーズムの低減」」「プレゼンティーズムの低減」「ワーク・エンゲージメントの向上」といった数値換算が可能な測定指標を立てていますね。
ちなみに、プレゼンティーズムは「健康の問題を抱えつつも仕事(業務)を行っている状態」を表す言葉であり、アブセンティーズムは「仕事を休業している状態」を表す言葉です。
従業員の生産性に関しては、よく社内で議論されると思いますが、健康経営では上記の3つの指標が活用されています。大企業の中でも健康経営のレベルがトップクラスの健康経営銘柄に認定されている企業でも活用されている指標です。
「アブセンティーズム」は、学術的に確立されている設問内容で測定が可能なのですが、この企業の場合、アブセンティーズムの改善に関わる指標を「(2次検査などの)要受診率の低下」「主観的健康感の改善」「ストレス反応の改善」と定めているようです。
では、「要受診率の●●%の低下」を達成するためには、何をすればいいいのかという議論になっていきます。
この達成に大きく関わる指標はなにか。
この企業は、「健全な食生活を送る従業員の割合向上」「飲酒習慣のある従業員の割合向上」が大きな影響要因であると捉えたようです。自社の産業保健スタッフとも議論したり、要受診者の課題に食生活が関係していると相関分析をされたのでしょう。
そして最後に、「食生活」「飲酒習慣」の改善のための取組みを検討した結果、「食事セミナーの実施」や「生活習慣改善に関するメール配信」を行っていこうと決め、その活動が上手く進んでいるかどうかの指標として、「参加率」「閲覧数」を追っていくとしたようです。
これが戦略マップの策定のざっくりとした流れです。
どんなビジネスでもこのように、いわゆる、KGI、KPIを設定して、
ゴールに向かって進めていると思います。
健康経営も同じです。
健康という投資対効果が見えづらいテーマだからこそ、しっかりと根拠に基づいた目標とゴールを定めて、最終的に経営課題を解決していこうということです。
個人的にもこの策定は本当に重要だなと思います。
特に、健康経営の取組み予算の確保に苦労されている企業担当者ほど早めにチャレンジして欲しいです。
健康経営って、経営層からすると従業員の健康は大事とは分かっているけど、「どのくらい投資対効果があるの?」ということで、どうしても投資の優先順位が低くなりがちです。
だからこそ、場当たり的な施策を検討するのではなく、長期的な視点で、今あるデータに基づいて、プランニングする必要があります。
プランに基づいて成果が少しずつ見えてくれば、経営層の意識も変わり、予算も確保しやすくなると思いますので、まずは3〜5年のスパンを見据えて計画することが重要かなと思います。
令和2年度健康経営優良法人 まとめ
【健康宣言について】
健康経営優良法人制度では、社内外に対して、経営トップを巻き込んだ「健康宣言」を行うことが求められます。
ホワイト500に選ばれている企業のHPを見るととてもわかりやすいです。
健康経営で有名なSCSK株式会社さんのHPのリンクをご紹介します。
https://www.scsk.jp/corp/csr/labor/health.html
今回の調査票から、投資家が確認しやすい開示媒体に関する設問項目が追加され、健康経営宣言として開示すべき内容も細かく提示されました。
何を施策として取り組んだのか、そしてどのような成果が有ったのかなども詳細に公開していくことが求められています。
ただし、上記の戦略マップが策定できていればそれらも明確になっているはずですので、やはり戦略マップの策定は重要かと思います。
令和2年度健康経営優良法人 まとめ
【現場の巻き込み】
今年度から管理職の健康経営推進や、各職場ごとの健康経営推進担当者の設置が評価項目に追加されました。
人事や健康管理室からの健康施策の勧奨だけでは、現場の理解を得るには不十分ということです。各事業所ごとに優先すべき健康課題は異なるという可能性もあります。一律、全社で施策を推進することも重要ですが、それではカバー仕切れない事業所ごとの健康課題を把握し、それに対して何らかの施策を立てていくというやり方も併せて行っていくことで、現場の理解と協力がさらに得られていくかと思います。
令和2年度健康経営優良法人 まとめ
では最後に、今回のまとめです。
●ボトムアップで健康経営の推進ができている企業は少ない
●戦略マップに基づくPDCAサイクルを回すための体制構築ができていない
●効果検証の実施と検証開示は、いまだに実施できていない企業が多数
健康経営優良法人制度も広まりつつあり、多くの企業がチャレンジしています。とはいえ、トップダウンでスタートしたものの、現場の理解・浸透が不十分なまま取組みが進んでいる場合もあり、そうした現場だと「健康経営の取組み自体が少しストレスなんだよね」という現場の声も出てきています。
設問にも追加されていますが、現場の巻き込みは今後の重要テーマです。
また、健康経営の取組みに関して、戦略マップ自体が今年度から評価項目に新たに加わったということもあり、まだ十分に健康経営に向けた戦略が立てられていなかった企業が多いようです。
フィードバックシートが返ってきたこのタイミングで、振り返りをしていきましょう。