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真鶴で髪を切る
迫りくる急斜面の合間を縫うような景色が続く根府川あたりからトンネルを抜けると、視界がパーっとひらけた。どこからその感じがくるのかはわからないけれど、なんだか違うな、という感じがした。
駅を降りて、地図を頼りに歩く。石段を上って細い小道を進んだ先に、そこはひっそりと佇んでいた。
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空色の扉をあけると、そこには洗練されていながらもぬくもりを感じられるような空間が広がっていた。
「本と美容室」。
三崎にある出版社「アタシ社」の姉妹店?新プロジェクト?的な、美容室と本屋がひとつになったお店。
美容室から細い廊下を進むと、現れたのは八角形の小屋のような空間。そこが本屋で、空間としては決して広くはないけれど、大きな窓から射しこむ優しい陽の光が明るく開放的な空間に仕立てていて、あぁ、いいな、と思った。
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選書は、長野県・松本にある「栞日」が担当されているらしく、ずっと行きたいと思っていたけれどまだ行けていない「栞日」の空気感を少し味わうことができて、あぁ、最高だな、と思った。遠くに海が見える窓の前に腰かけて、いくつか本を手に取る。アタシ社の雑誌「たたみかた」が気になった。
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予約の時間になり、髪を切ってもらう。夏なので伸ばしていた髪をバッサリ切り、久しぶりに前髪をつくった。
真鶴の『美の基準』を読ませてもらった。公的機関が発行したとは思えないような言葉たちが並んでいて、まるで名著を読んでいるかのような気持ちになった。心躍る感じがした。『美の基準』についてもっと知りたいと思った。この冊子がつくられた当時の様子や、関わった人の思い、約30年を経ての変化。『美の基準』を踏まえて街を歩いてみたい、感じてみたいと思った。街歩きツアーを開催している「真鶴出版」に今度泊まってみよう。
ずっと、美容室難民だった。数ヶ月に1回は行く必要がある場所で、それなりの金額を払う場所にも関わらず、ワクワクするような選択がずっとできずにいた。これといった決め手に欠けるというか、ただの消費者でしかなかったというか。そんな難民だったわたしにとって「本と美容室」は待ち望んでいた場所でした。
本屋のみの利用もできるとのことで、土日は喫茶もオープンするそう。今度はコーヒーを飲みに行こうと思います。