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ひとりぼっちのわたしに
それは私にひとりの友達もいなかった時代のこと。長い隊列の中で、孤独を悟られないように付かず離れずしながら、土手を進み、川を越え、街外れの広い公園にたどり着いた。その日は遠足だった。
笛が鳴るとみんな散り散りになった。私は公園の隅にある高い木にもたれ、弁当を広げた。走り回ったり、ボールを投げ合ったり、誰もが浮き立っている風景を眺めながら、箸を動かす。
「弁当を食べ終わったら、どうしよう……。」
ずっと、あの夏のままで
社会人になって一年目の夏、地元の友達を集めてキャンプに出かけた。車三台で連なって、山奥にあるキャンプ場へ向かう。途中、何度かコンビニに寄って、やみくもに煙草を吸った。
幹事だった私が先頭を走った。後ろの車は男四人と荷物を詰めこんだ、むさくるしいステーションワゴン。その後ろは、男女二人ずつが乗った真新しい軽自動車。あの娘はその後部座席に座っていた。友達の妹の友達だった。大学一年生で、その時は名前も
大人になんてならなくていい
高校を卒業したら、地元で就職して、そこで一生働きつづける。私の育った町では、それがあたりまえのことだった。大学に進むのは、よほど裕福な家庭か、本当に勉強が好きで仕方ない人たちだ。「やりたいことが決まらないから、とりあえず大学に行く」なんて考えはそこにはなくて、「やりたいことが決まらないなら、生活のためにとりあえず就職する」、誰もがそんな風に思っていた。そして、その大半は、結局やりたいことなんて見つ
もっとみるブルースは夜に溶けて
湯上がりに汗ばんで小窓を開けると、雨の音が聞こえる。今夜、アスファルトは濡れるらしい。チボリのラジオをひねるとハスキーボイスが漂ってくる。ウイスキーの壜が電球に嘗められて光っている。団扇で首筋をそっと扇ぎながら思ったのは、いつかの夏の邂逅だった。
酒場には幾つかの人影があったがそのどれも風景だった。私の目の前には二十年の歳月があった。彼は大人になったことを悪びれるようすもなく子供の頃とおんなじ