M&A仲介業者へのフィーが高い理由/後編|M&Aアドバイザーのつぶやき
こんにちは。かきもとみさです。私はM&Aアドバイザーの仕事をしています。
今回はM&A仲介業者への報酬が高い理由の後編です。
前回の記事で、M&A業者への報酬が高いのは「経営者にとっての1番の悩み事を解決できるからである」ということを説明しました。金額というのは「解決できる課題の大きさ」によって左右されるということを元プロ野球選手の高森勇旗さんの記事から解説させていただきました。
ですが、「M&A業者へ報酬は高くて然るべき」というのは私が伝えたい本題ではありませんでした。
今回は私が伝えたい本題を!
私が伝えたいのは、大きく下記3つです。
①M&Aアドバイザーは金額以上の仕事をせよ
高い報酬を堂々ともらうのは理解できます。それだけの課題解決の大きさが大きいという認識は前回の記事に書いた通りです。
ただ、「それ相応の仕事をきちんとできているのかどうか」をアドバイザーは常に自問自答すべきだと思います。
これは自戒を込めてですが、世の中のアドバイザーにも伝えたい。
高い報酬をもらったとしても「助かったよ。それもこんなに安い報酬でこんなに尽くしてくれるなんて。本当にありがとう」と心から言ってもらえるような仕事ができているのかどうか、きちんと自問自答しているでしょうか。
まかり間違っても「この報酬、相場ですから。当然払ってもらわないと困ります」という態度をとらないでほしい。(こういう態度をとる輩がいるから、M&A仲介業者への悪評が消えないのかもしれません。迷惑千万…!)
人が介在する価値を見出せなければ、いない方がマシ
これはM&Aアドバイザーの仕事に限ったことではありませんが、営業でも、コンサルタントでも「その人が関与したことによって生まれる価値」がないのであれば、その人は消えたほうが良いんです。
営業なら、お客さんの購買に至るまでに営業人材が関与したことによって価値が生み出せないのであれば、ぶっちゃけ通販で買ってもらった方が良い。これは大げさではなく。だってその分の人件費が浮きますから!
②M&A商談の足を引っ張る金額の取り方はやめるべし
そして、たまに「情報提供料」だったり「トップ面談希望の場合は前金」みたいなお金の取り方をする業者があるのですが、こういうのはやりすぎるのは良くないと思います。
M&Aはただでさえ成立するのが難しいのに、買手が「まずは売主社長と話してみたい」「検討材料が欲しい」というケースで、大きな金額を設定するのは良くないと思います。
ここはアドバイザ-業をしている会社にたとえ労力がかかったとしても、M&A検討の門戸は大きめにしておいた方がよいと私は考えています。
トップ面談したけどポシャったとか、情報提供したのに買手が検討してくれなかった・・などの無駄な労力となることへの牽制として金額設定しているのかもしれませんが。。ちょっと個人的にはやり過ぎかな。と。
ただ、私もアドバイザーとして関わる際には「基本合意」に至る場合には一定の報酬を買手からもらうようにしています。これは自分の工数分を確保するという意味合いではなく「買手に覚悟を持ってもらう」フェーズに入るからです。その時点で、他の買手候補にお断り連絡を入れるため、「ちょっとやそっとでは後戻りしてもらっては困るよ」ということを自覚してもらうためです。
ですが序盤のプロセスでの金額設定をしすぎてしまうと、売主社長にも選択肢が少なくなることになりますし、M&A成立を目指すとしたら逆に足枷になるのではないかなと考えています。これでは本末転倒です。
③M&A成立が正解という概念から少し離れよ
最後に、これは組織に属するM&Aアドバイザーの場合はめちゃくちゃ難しいのですが、「M&A成立が唯一無二の絶対的な正解である」という考え方を辞めたほうが良いと思っています。
成約しない限り報酬がもらえないアドバイザー業にとっては、とても痛いところだと思いますが、本当に売主社長にとってのベストな選択を一緒に寄り添って考えるべきです。
例えば基本合意してDDが進んでいて、もうすぐクロージングのフェーズだとしても、アドバイザーから見て仮に「この相手とは成約させない方が良い」と考える点があるのだとしたら、きちんと売主社長には伝えるべきです。
クロージングまで早く進みたい気持ちが発生するのはわかりますが、その相手が正解ではないかもしれないし、もしかしたらM&Aではなくキレイに清算し廃業したほうが幸せなケースもあり得るかもしれません。
ここが組織に属するアドバイザーの立ち位置として難しいところです。私もずっと営業だったので「クロージングしたい気持ち」は痛いほどわかります。
でも、M&Aアドバイザーがクロージングするのは、会社まるごとの運命です。ITシステムや人材広告であれば「買って損する」ことはほぼないと思いますが、「会社を売る」「買う」は一回切りであることが大半でしょう。本当に失敗してしまったら後悔する可能性も大いにあります。
私が売主社長だったとしたら、この案件成約したらインセンティブ1000万円貰えるというアドバイザーに「この相手はベストですよ。ここに決めましょう」と強くアドバイスされたとしても心に響かないと思います。
ときには「もう少し考えましょう」「この相手とはやめましょう」とニュートラルにコメントができるようなアドバイザーの方が信頼できると思っています。
だから、私は組織の中でM&Aアドバイザーはやらないことで自分の哲学や価値観を大事にできると感じ、フリーランスを選んだのです。
世の中のアドバイザーの大半がM&A成約件数のKPIを背負い、成約によってボーナスが決まるような世界で一生懸命働いているのかもしれないけれど、「M&A成約が常に正解ではないのかも」と少しでも思うことで日々の売主社長や買手へかけるコメントの次元が変わってくるのではないかなと思っています。
最後に
M&A仲介への報酬がなぜ高いのかというテーマで2回に渡り記事にしてみました。後編は私の想い強めだったと思います…。
M&A仲介者というのは「しょせんは仲介」です。というのは、私個人的にはゆくゆくはM&A仲介業というのはどんどん高い報酬をもらえなくなっていくし、マッチングサイトなどで売主買主が直接交渉を行うケースが増えてくると考えています。
また「仲介(売主買主両方からフィーをもらうケースがある)」というは許されているのはほとんど日本だけで、海外ではFA(ファイナンシャルアドバイザーで、売主買主どちらか一方と契約する)主流なので、仲介業者そのものが存在しなくなっていくことも多いに考えられます。
その2つが現実となっていくのに必要なことは何でしょうか。
それは、当事者たちのM&Aリテラシーの向上です。売主買主たちが、M&Aに対する考え方、作法などのノウハウを身に着けることができれば、M&Aアドバイザーというのは存在価値が失われていきます。
「存在価値が失われていく」というと悲観的に聞こえますが、これは悲しいことではありません。
コンサルタントの最高の功績は「コンサルタント不要になること」だという話は聞いたことがある人も多いと思います。コンサルタントが関わったことで顧客が自ら考える思考力を身に着け、施策を打ち出し経営改善できるように成長すること。
これはM&Aアドバイザーの世界にも当てはまるところがあると思っています。M&Aの作法自体に決まりはないし、別にLOI(意向表明書)MOU(基本合意)のドキュメントの発生が絶対ではないけれど、両社が納得する形で契約締結ができれば良いのです。
それが難しいから、いまはM&A業者の存在価値がある。私たちはそこをご支援することでありがたく報酬をいただく存在ではあるものの、ゆくゆくは当事者同士で話がまとまるくらいの知見を身に着けてもらうことが、本来目指すべき将来像だと考えています。
成約して報酬をもらい続けることは永遠には続かないかもしれなせん。でもその1件1件の案件を通じて、より多くの経営者に知見を共有し、当事者たちが自律してこのM&A市場を盛り上げてもらうことが、M&Aアドバイザーの目指すべき世界なのではないかなと考えています。
長くなりましたが、本日はここまでです。
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