パラレルワールドの地図をAIで作る
AIでパラレルワールドの地図を作る
そんな自主プロジェクトを昨年から進めている。
実際の建築設計の過程で
「敷地周辺の地図を画像生成AIに読み込ませて、敷地のパラレルワールド(っぽい)地図を作成する」
というもので、
AI-PW(パラレルワールド)地図プロジェクト
と、命名してみた。
実はプロジェクトを一緒にやってくれていたオープンデスクの塚本くんがしばらく来れなくなったので、
一緒にパラレルワールド作りをしてくれるオープンデスク生の募集(建築学科でない方も可)も兼ねて、
本記事ではAI-PW地図プロジェクトの現状と展望を共有したいと思う。
(興味のある方は西倉にご連絡ください!)
(事務所は太秦映画村のすぐ近く!!)
nishikura.minory@gmail.com
01. パラレルワールド地図たち
敷地を含んだ実際の衛星画像をいくつか切り取り、
画像生成AIでパラレルワールドらしき地図を色々生成してみた。
以下はその一部抜粋だ。
(各画像の名前は適当です)
こんな感じで、
上手いことプロンプト(AIが画像を作るためのキーワードのようなもの)を入れていくと、
なんか似ているけど違う世界っぽい地図
=パラレルワールド地図
が出来上がることがある。
02. パラレルワールド地図から「気づき」をもらう
なんで建築設計の人間がこんな地図を作っているかというと、
このパラレルワールド地図は、僕たちが気づいていない周辺環境の特性や可能性を指し示してくれることがあるからだ。
パラレルワールド地図は元々の衛星画像の要素を強調したり、転換したり、合成して作られているように見える。
建物の大きさの違いが強調されたり、川が畑になったり、山の緑が住宅地の中に入り混じったりと、
元々の地図にある性質や形を参考にしながら、でもそのバランスを変えることで、ちょっと不思議な地図になる。
そのためか、パラレルワールド地図を見た後にもう一度元の衛星画像を見ると、
「なるほど・・・この敷地周辺って、形は似ているけどサイズが全く異なる建築物が入り混じっているのか」
とか
「あー・・・この川って立ち入れないけど生活環境を作っているという意味では田畑の風景として見立てることもできるのか」
とか
「この敷地って衛星画像だと分かりにくいけど緑に恵まれた環境なんだな」
という具合に、
敷地の周辺環境に新しい気づきを与えてくれる。
また、そもそも僕たちは上空から街を見たことがないので、元の衛星画像が本当に現実なのかを知らない。
すると、もしかしたら屋上には花がいっぱい咲いているかもしれないし、
川が干上がっていることも、あったのかもしれない。
もしかしたら将来的には荒廃した荒地が広がっているかもしれないし、逆に超高密度なエリアになっているかもしれない。
・・・そんな具合に、
パラレルワールド地図は僕たちが確認しきれない現実や過去未来の実際の隙間を埋めるように、
「もしかしらこういう場所(になる)かもしれない」も提示してくれる。
このように、敷地の周辺環境に対して新しい視点を導入してくれるという意味で、
パラレルワールド地図は単に面白いだけでなく設計にもそれなりの有用性はあるものになるのではないかと、僕たちは期待している。
設計をしていると、どうしても一つの視点に凝り固まってしまうが、
そんな時、パラレルワールド地図が僕たちの頑固な脳みそを解きほぐしてくれるわけだ。
03. もう少し詳しく、AI-PW地図プロジェクトについて
このあとは、もう少し詳しく、このプロジェクトを始めたきっかけや経緯を書いてみたいと思う。
03-01. AIで面白い地図を作りたい
ご存知の方もいるかもしれないが、僕たちMACAPでは以前から建築設計の初期段階に画像生成AIを使っている。
主にコンセプトデザインのブレインストーミングや、
スタッフと僕の間のコミュニケーションツール
(この絵のこれとかいいよね、みたいにAI画像を指し示しながら会話をしていた)
などに使っているのだが、
ある時
「敷地周辺の衛星画像と設計物のコンセプトを掛け合わせたら、
設計している建築の世界観が敷地周辺にも召喚できるのでは?」
と考え、試してみたのが始まりだった。
設計のコンセプトを通じて周辺環境を別様のものとして再解釈・再発見することができれば、
建築がその場所に建つ意義の一つにもなるかもしれないと思ったわけだ。
より具体的には、以下の手順を設定した。
「オモシロイ衛星地図」という、生成された画像に対する判断基準について、
これを論理的に説明するのは結構難しいのだが、
思い返してみると
「元々の地図と似ているんだけど少し違う、ちょっと不思議な感じ」
そんなものを求めていた。
上述の通り、設計している建築を通して周辺環境の解釈に気づきをもたらしたい、というのが当初の目的だったので、
「気づきを与えてくれるぐらいには違うけど、元の環境の気づきになるぐらいには連続性が維持されている」感じが
「少し違う」「ちょっと不思議」だったのかもしれない。
そして結果は以下の通り。
ちょっと不思議で面白い、現実のようで現実でない地図を出すことができた。
03-02. コンセプト自体も画像生成AIで発掘してみる
しばらくはこのように、設計に用いたコンセプトをプロンプトにして「オモシロイ地図」を生成していったが、以下の理由で徐々に行き詰まりを感じ始めてきた。
①単純なマンネリ化、地図のバリエーションが出尽くし始めた
②いまいち、設計に結びつかない感が拭えなかった
特に②は、
周辺環境の再解釈が進んだとしても、その新しい解釈が連続的に敷地内の建築に適用する必要性も妥当性も見当たらないということなので、
AI-PW地図プロジェクトに留まらない「配置図と建築の関係性」の本質的な問題にぶつかった気がした(詳しくは後述)。
・・・なんにせよ、このままだと良くないなということで、
コンセプト自体も画像生成AIで発掘することを試みてみた。
具体的な手順は以下の通り。
ver.1.0と1.1で異なる点は、コンセプトを自分で考えない点だ。
「自分で考えないのに、コンセプト?」と思われるかもしれないが、
ランダムに作ったキーワードが仮に設計中の建築とうまく馴染んでくれれば(上記③の「違和感がなければ」)、そのキーワードは、僕が気づいていなかっただけで潜在的にはその建築のコンセプトだった、とみなすことができると考えた。
この手法を採用したことに明確な理由はなく、コンセプトの生成からやれば敷地内の建築と敷地外の環境により明確な連続性を見出すことができるかもしれないというボンヤリとした期待を持っていただけだった。
そして結果は以下の通り。
ver.1.0にはなかった新しいパターンの「オモシロイ衛星地図」が現れ、新たな視座が本計画にインストールされた感はあった。
しかし一方で、
ver.1.0の試行錯誤の末に感じた「いまいち、設計に結びつかない感」の残滓もあった。
03-03. パラレルワールドとしてのAI地図
ここまで画像生成AIで地図を変容させ、今のところ僕たちはAIによる地図をある種の「パラレルワールド」として理解することにしている。
その場所でもしかしたらあったかもしれない風景、今後あるかもしれない風景、もしくは、身体や視点を変えれば現前しうる風景、
現実に向き合っている世界を「設計中の建築」という関数にてえ変換した、ちょっと違う世界。
これは上述の通り、敷地環境への別解釈を与える。
そして、その解釈は一つの場所に複数の複数同時併存する多世界的な「オルタナティブ・パブリックス」が存在することを示唆する。
これが「AI-PW地図プロジェクト」の現在地点となる。
もちろん、設計している建築のコンセプトが違えば、立ち現れるパラレルワールドも違う。
人それぞれ世界の見え方が異なるのと同様に、建築それぞれが潜在的に持つパラレルワールドも全く異なる。
また、ただ単に「オモシロイ衛星地図」として並べているだけでも楽しいのだけど、
僕たちはその先の、面白さがアクチュアルに現実へとフィードバックする未来を模索していきたいと思う。
03-04. 新しい配置図解釈を求めて
また、これはやや建築オタク的な話題になるが、
「AI-PW地図プロジェクト」は配置図と建築の関係性にも批判的視座と多様性をもたらしてくれるかもしれないと考えている。
3次元的な空間では建築物と周辺環境は嫌でも連続してしまうけど、
配置図上では敷地境界線によって明確に区切られ、断絶される。
そのため、配置図的情報を建築の設計に(意味のある形で)活かすのは実はかなり難しく、
周辺スケールの確認や道路の構造、周辺の建物との平面形状における相同性・相違性の検証程度に終わってしまうことが多い。
上でも述べた「いまいち、設計に結びつかない感」はこの敷地境界線による断絶が理由なのではないかと、僕は考えているのだが、
衛星地図から見える周辺要素の抽出や整理、周辺環境の読み替え、アイレベルでは見えない世界の仮想的記述など、
パラレルワールド地図は通常の配置図や地図情報では得られない情報を、建築設計に有意な形で提供してくれる可能性を秘めている。
陳腐で無意味かつ言い訳のような「周辺との連続性」という詭弁とは異なる、周辺環境と建築の関係性(および断絶性)を、
今後、もう少し追求してみたい。
03-05. 終わりに(使っている画像生成AIについて、など)
なお画像生成AIは、NightCafe(下記リンク)というサイトで画像生成AIを使っている。
これを使っていることに特に理由もこだわりもないが、一応共有。
ご覧の通り、AI-PW地図プロジェクトは未だ道なかばで、今後も実際の建築設計を通じて取り組んでいく予定なので、
オープンデスクで参加してくれる人や、一緒に議論し可能性を模索してくれる人を随時募集中だ。
[お仕事の依頼や相談は下記連絡先まで]
nishikura.minory@gmail.com
MACAP代表 西倉美祝
ウェブサイト : https://www.macap.net/
インスタグラム: https://www.instagram.com/minoryarts/
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