『身体が「ノー」と言うとき』
『身体が「ノー」と言うとき』は、
カナダ在住の医師ガボール・マテの名著のタイトルです。
(邦訳2005/原著2003)
本来なら、「ノー」というのは、言葉でいうことですが、
それを、身体が発している、ということですね。
副題には、「抑圧された感情の代価」とつけられているように、
ストレスや感情的な抑圧が続くと、身体が拒絶反応のノーとして、
病気を発病している、という発見を記した本です。
つまり、この本の中心的な論点は、
ストレスや感情的な抑圧が、どのように身体的な病気や慢性疾患に
影響を与えるかについてです。
著者ガボール・マテは、身体が健康を維持するためには、
感情的な健康と密接に関連していると主張します。
以下では、この本 『身体が「ノー」と言うとき』の論点と、
その中で主張されている解決策を、説明します。
『身体が「ノー」と言うとき』の主な論点
感情の抑圧と病気の関係
著者マテは、感情を適切に表現できないことや、
自分のニーズを無視することが、
身体的な病気の原因になると述べています。
特に、慢性的なストレスやトラウマが、免疫システムを抑制し、
さまざまな疾患につながると説明しています。ストレスと免疫システム
本書では、ストレスがどのようにして免疫システムを抑制し、
体が病気にかかりやすくなるかについてのメカニズムが解説されています。
ストレスホルモンの過剰な分泌が、
炎症や慢性疾患を引き起こすことが説明されています。自己犠牲と疾患
マテは、特に「良い人」であることや、
他者の期待に応えることを優先する人々が、
自己犠牲的な行動により自分自身を消耗させ、
結果的に病気になるリスクが高いと指摘しています。
患者のケーススタディ
マテは、彼が出会った患者たちのケーススタディを通じて、
感情的な抑圧と病気の関係を具体的に示しています。
これにより、感情的な問題が身体的な健康にどのように影響するか
を明らかにしています。
さまざまな症例が取り上げられており、
それぞれが心理的および感情的ストレスと
身体の病気の関連を示しています。
いくつかの代表的な症例を以下に挙げます。
(1)エヴリンのケース
エヴリンは、乳がんを患っていた女性で、
家族の中で「良い人」であることに対する
強いプレッシャーを感じていました。
彼女は常に他人のニーズを優先し、自分の感情を抑え込んでいました。
著者マテは、彼女の病気が、長年の感情的抑圧と、自己犠牲の結果
であると分析しています。
(2)ベンのケース
ベンは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患っていた男性で、
生涯にわたって自分の怒りやフラストレーションを
表現することを避けてきました。
著者は、彼の自己抑制と感情の抑圧が、
身体的な神経変性疾患として現れた可能性を示唆しています。
(3)メアリーのケース
メアリーは、慢性リウマチ性関節炎を患っていた女性で、
彼女の生き方は、常に他人を喜ばせようとするものでした。
彼女は怒りや不満を内に秘め、表現することができませんでした。
著者は、この感情的な抑圧が、自己免疫疾患の発症に寄与したと
考えています。
(4)ロバートのケース
ロバートは、心臓発作を経験した男性で、
彼は生涯にわたってストレスフルな仕事を続け、
感情を抑え込んでいました。
彼の心臓発作は、心身のバランスが崩れた結果として
起こったとされています。
これらの症例は、感情的な抑圧やストレスが
どのように身体の病気として現れるかを示すものであり、
著者の主張する「感情と身体のつながり」を強調しています。
身体からの「ノー」にどうかかわるか
感情の表現
自分の感情を抑え込まずに表現することの重要性が、強調されています。セルフケアと境界の設定
自己犠牲を避け、自分の限界を認識し、
適切な境界を設定することが推奨されています。マインドフルネス
マインドフルネスやボディワークを通じて、
心身の健康を維持する方法が紹介されています。
以下の7つの重要なスキルが挙げられています。
・アクセプタンス(受容)
・アウェアネス(気づき)
・アンガー(怒り)
・オートノミー(自律)
・アタッチメント(ふれあい)
・アサーション(主張)
・アファーメーション(肯定)これらについては、機会をあらためて書きたいと思います。
おわりに
『身体が「ノー」と言うとき』(ガボール・マテ著)は、
精神的・社会的・対人的な要因が、身体の健康にどのように影響を与えるか
に焦点を当てており、とくに慢性疾患を抱える人々や
その治療に携わる専門家にとっても、有益な視点を提供しています。