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机の上の鳩

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小説・随想などなど、書きためてきたものたち。何とも呼び難いものが多いため小品と呼んでいたりもします。
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2023年7月の記事一覧

次ぎをもっとうまくやるための手引き(無職雑感)

大学院を落ちたのは、どことなくそうなることがわかっていた。 それでも踏ん切りをつけるために、合否もわかる前から引越してしまい、先が見えてしまってから、さてこれからどうしようと漸く考え始めた。 級友たちが真面目に就職活動をしている傍で私は何もしていなかったのだから、そのようなノウハウは何一つなく、とりあえず派遣登録をしてしばらく日銭を稼いだ。 その日々で様々な思うこともあったが、ここには書かないでおく。 半年ほどのらりくらりとして親の脛をひたすらに齧り、就職が決まった時にはそ

〇七一九 - あの胡瓜の飾り切り -

 私の両親は嫌煙家で、大酒飲みだった双方の祖父のあらゆる蛮行を知っていたためか、酒に飲まれる質でもない。至極真っ当な両親の膝下ならぬ、小さな箱庭を飛び出して進学した私は、しかしなんの因果か煙草のもくもくと煙る酒呑の巣窟のような昔気質の小さな割烹でバイトをしていた。何年もの昔、私が学生の頃の話だ。  小さな割烹は、ただ一人のマスターが切り盛りしていて、店内は二十人入るかそこらという手狭さ。そのくせ大きな海亀の琥珀色の剥製が壁にかかっているような、なんとも奇妙なバランスの店だ

【書籍案内】平成小品集

書籍詳細 第二十八回文学フリマ東京新刊。 「平成時代の終わりに」「平成小品」「置キ土産」の章題のもと、小品35点収録。 初刷 2019/5/1 / 文庫判(A6) / 本文114ページ / ¥800 あらすじ まずは気取ったあらすじがこちら。 旧字体が読みにくいと思われるため、新字体でも以下書き起こします。 新しい元号が決まりました。 新しい時代の始まりです。 過ぎた世に戻ることはできなくても、ただ振り返ることはできる。 平成年間に書いていたものをかき集めました。

平成小品集(3/3)

2019年5月発行の「平成小品集」。 書籍は完売、再販の予定もないため、内容を抜粋して公開します。 小説とも随想ともとれぬ、ショートショートの数々です。 とても古い小品が並んでいます。 前半はショートショート。後半はそれなりの長さのものが数点。 他の小品もよろしければどうぞ。 置キ土産うつくしいかたち  朝起きると世界が灰色に覆われていた。木も、道路も、空も、すべてが。世界一大きい火山が噴火して、その火山灰が空を覆い、結果人類が滅亡するというシナリオがいつかあったけれど

¥200

平成小品集(2/3)

2019年5月発行の「平成小品集」。 書籍は完売、再販の予定もないため、内容を抜粋して公開します。 小説とも随想ともとれぬ、ショートショートの数々です。 前半は東京について。後半は小説のようなもの。 他の小品もよろしければどうぞ。 平成小品東京 東京駅  トーキョーは架空の都市であると思っていた。人の津波が毎日寄せる新宿、若さの溢れぶつかる渋谷。古い時計の鳴り続ける銀座、もうずっと玄関のような顔をした東京。  ふと手にした画集をぱらぱらやると、浮世絵が江戸の人々を生活さ

¥200

平成小品集(1/3)

2019年5月発行の「平成小品集」。 書籍は完売、再販の予定もないため、内容を抜粋して公開します。 小説とも随想ともとれぬ、ショートショートの数々です。 この回は比較的新しいものが収録されています。 他の小品もよろしければどうぞ。 平成時代の終わりに「新しい、元号は、令和であります」 と、菅官房長官が会見を開いた時は恐らく、電車内で、上司と新人に挟まれ、他愛もない話題を提供していた。月に一度本社まで赴かなければならない会議の──それは私が出るべく最後のもの、の帰りである。

¥200

【書籍案内】廻り路

書籍詳細 第二十六回文学フリマ東京の既刊を2023年に再編集。 表題作「廻り路」、短編「焚き火」収録。 初刷 2018/4/26 第二刷 2023/5/21 文庫判(A6) / 本文124ページ / ¥800 あらすじ まずは気取ったあらすじがこちら。 旧字体が読みにくいと思われるため、新字体でも以下書き起こします。 「廻り路」 ──すべらかな美しい紙にしたゝめられた、たゞ一通の恋文からはじまる二人の奇譚。 お手紙様と呼ばれるその社の境内には手紙の生る木が立ってい

【書籍案内】くちなし

書籍詳細 文学フリマ東京35新刊。 表題作「くちなし」、短編「花の匂い」、巻末詩集収録。 初刷 2022/11/20 / 文庫判(A6) / 本文78ページ / ¥800 あらすじ まずは気取ったあらすじがこちら。 旧字体が読みにくいと思われるため、新字体でも以下書き起こします。 「くちなし」 ──妄想と現実に境を付けるな! 雑誌広告の女に恋をする仮想恋愛小説。 紙の上に存する女に恋をした。 ある雑誌に載っていたただ三枚の広告写真の、モダンガールを気取った女が微笑