【書籍案内】廻り路
書籍詳細
第二十六回文学フリマ東京の既刊を2023年に再編集。
表題作「廻り路」、短編「焚き火」収録。
初刷 2018/4/26 第二刷 2023/5/21
文庫判(A6) / 本文124ページ / ¥800
あらすじ
まずは気取ったあらすじがこちら。
旧字体が読みにくいと思われるため、新字体でも以下書き起こします。
「廻り路」
──すべらかな美しい紙にしたゝめられた、たゞ一通の恋文からはじまる二人の奇譚。
お手紙様と呼ばれるその社の境内には手紙の生る木が立っている。
その銀杏の枝に恋文を結びさえすれば、ひとりでに縁も結ばれるという噂だから、町中の誰もが秘めた心を打ち明けて宛のない独りよがりな文を書く。
今日もそこに手紙を生らせるものが一人。
また、その手紙をぬすみ見るものが一人。
明治から大正へ移りゆく東京を舞台に、知っているのに知らない二人が、ただ互いを恋う。
もどかしく愛おしい、いつか交差する恋愛小説。
短編「焚き火」
──今かもしれない。今であれば、多少火遊びをしたところで何の害にもならないだろう。
人よりも寄り道をしない人生を歩んできた。
火付けに押入り、殺人……妄想をするだけならばなんだってできる。
冒頭
その神社の境内には、手紙の生る木があるというので有名であった。山中に打ち捨てられたように獣道の参道を歩いて行った先にある社は、思いがけず手入れが施されていて、いつでも朱塗りの美しい鳥居が待ち構えている。こぢんまりとした社の周りはすぐに森で、それに紛れて一本だけ立っている御神木、育ちきっていない貧弱な銀杏の木がそれだ。その木は葉をつけることも実をつけることも地味で、よく見なければそれが銀杏の木であることにも気がつかないであろう。
それは一見するとくすんで白くこんもりとしている。重そうに見えるものは夥しい数の結び文で、枝に隙間なく結ばれているのでまるで葉や実のように見えた。それらはいつのまにか生り、そしていつのまにか消えていく。生るところも、朽ちるところも誰も見たことがなかったが、しかし町人たちによって結わえ付けられていることだけは周知の事実だ。皆がその木に手紙を結ぶのは、そうすることで願いが聞き届けられるという古い言い伝えがあるからで、それが事実だと裏付けるような量の供物が、平日にも社にたくさん並んでいる。その由緒がどこにあるのかもはや誰もが知らないのに、神社自体は忘れ去られるはずもないほどに町人たちに慕われていた。
いつからかそこはお手紙様と呼ばれている。あの木に手紙を結ぶには、誰にも見られてはならないという言説があったけれど、実際に参ったものたちは、どのような時間に参ろうともまるで自分以外はその参道を見失ってしまったのかと思えるほどに、誰にも会うことがない、と囁きあう。今まで神主一人として誰にも見かけられることがない。それであるから、誰もがその獣道を一人で訪れては、文を結わえ付けて、そしてただ一人帰っていった。
著者雑感
だいぶん昔になにかどこかの恋愛小説を主軸としたコンペに出したものです。
もう今読み返すと恥ずかしくて恥ずかしくてかなわないのですが、ほぼ誤字脱字の修正にとどめて再販しました。
もとは「宛のない手紙」という題で書いたものだったと記憶しています。
初稿は読み返すのを考えることも恥ずかしいので読み返していませんが、届かない手紙を書き続けるという主軸は変わっていないはずです。
文学フリマに出るにあたり、初めて製本したのがこの話で、そもそも長編小説を書くのが苦手なためかなり苦心してこの構成にしたように覚えています。
長編を書くのが苦手なんですよ、なぜならプロットをほぼ作らないため。
(大声で言えることではありませんが、インターネットに記載します。)
短編を寄せ集めれば長編になる!!!という発想でやり抜きました。
そして手紙って良いですよね。
鳩はこの現代の、人間の速さについていけませんため、手紙が好きです。
相手に渡ったころにはすでに過去のことが書いてあり、返信も過去のことで時差がある。
いいんですそのくらいで、そのくらいの距離感がちょうどよい。
最悪黒ヤギさんにお手紙食べられていてもこちらは泰平に、気がつかないわけですから、それでいいわけです。
手紙を木に結ぶ設定は、確かすずなりの御籤から連想したように思いますが、もうあまり書いた当時のことは覚えていない……。
でも御神木に御籤結ぶのはだめですよ。
木が弱ってしまうのでね(たぶん)。
書影
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いただいた感想など
少しだけご紹介します。
再販を迷ってぎりぎりに入稿したため確認が甘く、目次に間違いがあります。
訂正表を入れたのですが、その裏に書いたSSはほぼ事実です。
そう、つまり皆さまにおかれましては電子レンジから目を離さないように。
小説にタイトルをつけるのが昔から苦手です。
なのでそのタイトルの付け方や、製本するにあたり設定を付加した紙屋など、そういったところに目をつけていただいてとても嬉しい。
第二刷から参考文献を巻末に入れています。
主にインターネットなので、よかったら読み物としてどうぞ。
この数年でなくなってしまったページも多いのが、諸行無常です。
現在死ぬほど読み返すのが恥ずかしいと思っているのですが、ニマニマしながら読んでくだされば鳩も救われます。
ニマニマね、できれば、ニマニマしてください。
たぶん今の鳩にはもうこれは書けないものだと思います。