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百合

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記事一覧

蝉の音

 彼女は縁側に腰かけて、友人宅の広い庭を眺めている。夕方の陽射しが庭を淡い橙色に染めている。彼女の右隣には食べかけのカキ氷がある。涼しげなガラスの器。銀色のスプーン。にごりのない赤のシロップ。たぶん舌は赤く染まっているだろう、と彼女は自分の唇に指を置いた。
 左隣にはその友人がいる。頭を彼女のほうに向けて寝転んでいる。夏だからとばっさり短くした髪が、手を伸ばせば届くところにある。友人は制服ブラウス

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通り雨

 雨が降ってきたとき、わたしとユカは市民プールの建物の中にいた。ちょうど着替え終わって帰るところだったので、いいタイミングだったのかなと思う。売店でわたしはスイカバーを、ユカはペットボトルのポカリを買った。市民プールの建物を出て、庇のところで雨の様子を眺めた。大粒の雨が地面に当たって弾けて、その飛沫がビーチサンダルを履いた足を濡らした。
 小雨になってきたので歩き出し、晴れ間が見えてもう降りそうに

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中庭の舞台

 今日は調子がいいみたいで、中庭にいこう、と彼女のほうから提案をしてきた。顔色は相変わらず悪いけれど、それでもいつもより頬に赤みが差している気がした。シーツを除けて、ベッドから足を下ろしサンダルを履き、ベッド脇の棚に置いていたカーディガンを羽織る。わたしは彼女の支度が済むのを待ってから口を開いた。
「ちょっとお腹空いたかな。売店あったっけ?」
 病院のすぐ向かいにスーパーがあり、買い物があるときは

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カレー、シチュー

 六歳児の作り物のような手が私の肌に触れる。私の右頬に。触り心地のよいヘッドドレスには興味を示さない。小さな彼女の手は熱くすべすべしていて、私の右の頬はそれよりも冷たくでこぼことしている。元々体温が低いのか、事故で焼け爛れたせいで温度が上がらないのか、よくわからないけれど、彼女はこの感触を気に入っているようだった。
 無遠慮にべたべた触ってくる。毎度のこと。気持ちの微かなざわつきは、彼女の満ちてこ

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りんご

 真上に軽く放り投げたリンゴを受け止める。かこっ、というような音と感触が手に心地よかった。ベッドの中の紫の顔は赤く、冷えピタが額に貼りついている。「紫」と書いて「ゆかり」と読む。ゆかりちゃんだ。そう呼んだことは一度もないけれど。弱っているところなので、そう呼んでみてもいいかもしれない。いつもクールな感じなので、照れたりするかもしれない。世界一かわいいよ、と言いたい欲望はいつもある。
 紫様がお望み

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プレゼント

「クリスマスプレゼント、何がいい?」
「……わがいい」
 ぽつりと呟くように彼女は言った。よく聞こえなくて、わたしが先を促すように視線を向けると、彼女は薄く口を開くように微笑んでから、ほっそりとした、胸の奥に染み込むような声を流した。
「……柱に繋がれて、冷たい床に座らされて、貴女は私の前で椅子に座って、ストッキングを脱いで、それから足を組んで、その足先を私のほうに向けて……」
 わたしは彼女から

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冬の海

「そうだ、海、行こう」
 朝の満員電車の中で私がつぶやくと、京都かよ、とサタにつっこまれた。
 今日の天気は雨で、列車の中はいつもより人が多い。ふだんかろうじて保たれているパーソナルスペースは今やゼロで、私たちはぴったりくっついている。温かいけど窮屈だ。窓ガラスが曇って、流れゆく街が水槽の中に沈んでいるようだった。水槽に閉じこめられてるのは私たちのほうか。口をぱくぱくさせる魚たち。酸欠になってしま

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