通り雨
雨が降ってきたとき、わたしとユカは市民プールの建物の中にいた。ちょうど着替え終わって帰るところだったので、いいタイミングだったのかなと思う。売店でわたしはスイカバーを、ユカはペットボトルのポカリを買った。市民プールの建物を出て、庇のところで雨の様子を眺めた。大粒の雨が地面に当たって弾けて、その飛沫がビーチサンダルを履いた足を濡らした。
小雨になってきたので歩き出し、晴れ間が見えてもう降りそうになかったので、遠回りして学校の前を通ることにした。そのまま帰っても特にやることもなく、ちょっとした暇つぶしだった。
日が照りつけて、すぐに地面から、もわっとした空気が上がってきた。肌がじんわりと湿る。学校の手前にある踏切で立ち止まり、カンカンカンカンという音を聴きながらスイカバーを齧る。ユカにも一口あげた。
踏切を渡ったところでスイカバーを食べ終えて、このアタリじゃない棒をどうしようかと考えながら歩く。ユカのポカリはまだ半分くらい残っていた。
「それ、持ちにくくない?」
ユカは親指と小指をペットボトルの胴に回し、真ん中の三本の指を下に向けて添えるように持っていた。軽くはたけば落としそうだった。
「んー いつもこう持ってるけど?」
「ふーん」
わたしは大体鷲掴みにする。ユカの持ち方はわたしよりも少しだけ女の子っぽい感じがした。
学校の塀の横を歩き、裏門のところで立ち止まった。校庭で野球部が練習をしているのが見えた。ノックとキャッチボール。さっき雨が降ったばかりなのだけれど、夏の乾いたグラウンドなのでちょうどよかったのかもしれない。
野球らしい金属音。降ってから晴れたときの雨のにおい。焼けて微妙にひりひりする肌。夏っぽいな、と思ってぼんやりしていると、急に頬がひんやりした。反射的にそのひんやりから顔をのけた。目を向けるとユカのてのひらが見えた。
「えっ、何?」
「手」
「ん?」
「冷たいよ」
さっきまでペットボトルを持っていた手だった。ユカはペットボトルを反対の手に持ち替えて、でもやっぱり三本の指を添えるようにしていた。
「うん」
「スイカバーのお礼」
わたしはユカの手に頬をくっつけた。ひんやりと冷たくて気持ちよかった。ほおっと息を吐くわたしを見ながら、ユカは頬をゆるめて「暑いね」と言った。
「うん、暑いね」
「夏だね」
「夏だよ」
ちらりと横目で見ると、ユカは自分の頬にペットボトルを当てていた。夏だ。