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料理苦手な私が、2人分のお弁当を作った日

「遠足では、お母さんと○○ちゃん(娘の名前)のお弁当を2人分用意してください」

 先生からそう言われるなり、血の気がスッと引く。何を隠そう、私は料理が苦手だ。生活のために料理は作るけど、自ら進んでやりたいとは思わない。

 お弁当はそんな私にとって、修羅の道だ。料理の腕以外にも、バランスや見映えといった総合力も求められる気がする。もはや総合格闘技である。

 Instagramを眺めると、海苔を小さく切って顔の形にしたおにぎりアート、タコさんウインナー、星型ポテトなど可愛らしい見栄えのお弁当が犇めいている。

 オシャレなお弁当をSNSで見る度に思う。一体、どうやったらそんな素敵なお弁当のデザインが思い浮かぶのか。

 過去にそう疑問を感じた私は、Instagramでオシャレなおにぎりアートを紹介していた堀はるかさん(@horiharu1213)にDMで取材依頼をしたことがある。堀さんは、快く取材に応じてくださった。(※あの時は、本当にありがとうございます)

↑当時執筆していた記事。この頃は「多良はじき」という、もう一つのペンネームを使用していました。

 堀さんのお話によると、おにぎりアートはお弁当には入れておらず、趣味で作っているらしい。おにぎりアートを作る前に、堀さんはお子さんのためにキャラ弁を作りたいと思い、本を購入していたそうだ。

 本を参考にして可愛いキャラおにぎりをひと通り作っていたところ、すっかりその魅力にハマってしまったそう。そこから、趣味としておにぎりアートを作り、Instagramへ紹介するようになったらしい。

 その話を聞くなり、ただただ圧倒された記憶がある。きっと本当にお料理や、お弁当作りが好きで、お子さんのことも愛しているのだろう。まだ子どもがいなかった当時の私は、そんな堀さんを眩しく思った。

 取材を受けていた当時、私にはまだ子どもがいなかった。あの頃は妊活を進めていたが、思うように成果が出ず、モヤモヤしていた気がする。私には、もしかしたら子どもができないかもしれないし。これから先、どうなるかわからないけれど。

 もし妊活がうまくいって、私にも子どもができたならば。その子を喜ばせるために、私も変われるだろうか。もしかしたら、キャラ弁を作るお母さんになれるかも。可愛いエプロンを身につけ、子どものために楽しくお弁当を作る自分を想像する。

 堀さんのお話を聞いてその凄さに圧倒されつつも、なぜかあの頃の私は「私も子どもができたら、キャラ弁作りに頑張るお母さんになるかも」と淡い期待を胸に抱いていた。

 今思えば、その感覚はTVで売れっ子アイドルを見て「私も、マイクを持てば同じように歌って踊れるかもしれない」と感じたり、演技派と呼ばれる女優に対して「泣きの演技なら、私だって」と思う感覚と少し似ている気がする。

 改めて私が「身の程知らずだった」と深く理解するのは、それから数年後のことである。

 それから数年後、私は不妊治療で41才の頃に第一子を出産。

 子どもができたことで、保育園・療育で遠足があると、お弁当を作る機会ができた。ここでやっと気づく。私はやっぱり、面倒くさがり屋なのだと。お弁当も、できれば手短に済ませたい。冷凍のおかずも使いたい。

 そんな私は、堀さんのように「お子さんのために、可愛いキャラおにぎりをひと通り作ってみよう」と思うお母さんにはなれなかった。

 子どもができたら、自分も大きく変われると思っていたが、それはただの傲慢だった。確かに、子どもができたことで、娘の笑顔に癒されたり。他の子どもに優しい眼差しを向けられたり。

 多少の考え方に違いはあったかもしれないが、そう大して中身は変わらないと気づく。自分を変えようと思うなら、変わるために努力しなければ何も変わらないのだ。

 そもそも不器用な上に面倒臭がり屋なので、海苔にハサミを入れようという発想がない。ハサミを使うのが面倒なので、指でちぎってしまう。その一手間をかけることで、キャラ弁も可愛くなるはずなのに。それすらしようとしないなんて。もはや、ただの怠慢である。

 なぜ、私はお弁当作りの手間を省くのか。面倒臭がり屋を、舐めないで欲しい。我々はその「一手間」をどれだけ省いて、楽に生きるかに人生のすべてを賭けているのだから。

 むしろ「海苔より、ふりかけをかける方が楽じゃない?」と思い、最近は「のりたま」のお世話になりつつある。

わかりにくいけど、おにぎりの中にのりたまを入れている。

 そういえば私「キャラ弁の作り方」という本すら購入していない。多分、作る前から諦めているのだ。キャラ弁の世界は、私が一歩足を踏み入れる領域ではないと。

 そんな私にとって、Instagramで見かけるお弁当はファンタジーの世界。真似をするのではなか観賞用として、その世界を堪能したい。

 もちろん、人のお弁当と比べて、「どうして自分は、上手くできないのだろう」と自分を責めない。人は人、自分は自分。誰にだって得意領域はある。それらをお互いに認め合うことで、世界は広がるのだ。

 遠足で向かった先は、中部国際空港セントレア。飛び上がる飛行機を見て「まままま……」と声を上げる娘に驚く。

 娘はまだ言葉が喋れないけど、気持ちが昂ると「まままま」などの声を出す。

飛行機を見て喜ぶ娘

 表情を見ると、嬉しそうにニンマリ。飛行機が飛ぶ瞬間を見て、楽しいのだろう。

 一通り飛行機を眺めた後は、お弁当タイムへ。娘と2人並んで、黙々とお弁当を食べる。娘は何故か、私のお弁当に箸を突っ込む。どうやら娘は、小さいお弁当よりも大きなお弁当の方がいいらしい。

お弁当

 そんな展開になるなら、最初から大きなお弁当で1つ作るべきだっただろうか。まさか、自分のお弁当に箸を突っ込まれるとは。想像していなかった。

 けれど、私はもう一度思い直す。娘用のお弁当は、ひとり一個きちんと用意することが大事なのではないかと。

 そういえば私も、結婚するまでお母さんに毎日お弁当を作ってもらっていた。母は、朝6時に起床して、会社へ向かう娘のためにお弁当を作って渡してくれた。

 自分がお弁当を作るようになり、つくづく思う。母は毎日、私のために大変だったのではないかと。そして私も、自分のためにお弁当を作ってくれる母の存在がとても嬉しかったのだ。

 娘へのお弁当は、今のところ保育園の遠足、療育の遠足で合計2回しか作っていない。たまにしか作らないので、おかずは何を入れればいいのかで凄く悩む。

 そんな時、参考程度としてお弁当のインスタグラムを眺める。おかずを入れる時は、同系色を避けて、色とりどりになるように。冷凍食品は減らしたいけど、なるべく無理しない程度にする。頑張りすぎてしまうと、それがストレスになってしまうから。

 お弁当作りは頑張るのではなく、楽しむ。そう思えたのは、過去に取材した堀さんの影響かもしれない。堀さんは、おにぎりアートを心の底から楽しんでいる方だったから。

 素敵な人は全部を真似するのではなく、できそうな部分のみ参考にしていく。これが私なりの、頑張りすぎないmyルール。お弁当作りは、負担にならない程度に、これからも楽しく頑張りたい。

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