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2021年ブックレビュー『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』(鴻上尚史・佐藤直樹著)

新型コロナウイルスの感染拡大で、この国の同調圧力や相互監視が強まった気がしているのは、私だけではないはずだ。「自粛警察」なるものが登場し、「ステイホーム」は強制ではなくて「自粛」のはずなのに、この国ではスパイみたいに「外出自粛」や「休業要請」に従わない人たちや店を責め立てる人たちが出てきた。

また、感染病棟の看護婦さんをインタビューした時に、感染した患者さんたちがSNSで名前や住所をさらされたり、責められたりして深く傷ついていたことを知った。誰だって感染のリスクはあるのに。そんな胸のモヤモヤが続いていた新年早々、2度目の緊急事態宣言が発出された。

劇作家で演出家の鴻上尚史さんと、評論家の佐藤直樹さんとの対談「同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか」を手に取ったのは、この本に今の空気を読み解くための何かを期待したからだろう。

鴻上さん、佐藤さんとも、日本の同調圧力を生み出しているのは「世間」だと説く。鴻上さんの言う世間は「現在及び将来、自分に関係がある人たちだけで形成される世界のこと」。これに対して「社会」「何も関係のない人たちがいる社会」。一方、佐藤さんの定義する「世間」は、「日本人が集団になった時に発生する力学」という。そして、「社会」「ばらばらの個人から成り立っていて、個人の結びつきが法律で定められているような関係」という。

佐藤さんは「世間」にはルールがあるという。
・お返しをしなければいけない。(モノをもらったら、お返しをする)
・身分制がある。(先輩後輩、上司や部下といった身分が関係性を決める)
・人間平等。(同じ時間を生きている、という共通意識。出る杭は打たれる)
・呪術性のルール。(香典返しなどの習慣)
・排他性がある。(誰かを除け者にして、自分たちの世間を強化する)

これは鴻上さんが唱える世間のルールとも一致する。

コロナの感染者に対する誹謗中傷やバッシングについても、「世間のルール」が当てはまる。自粛警察は、空気を読まないで自粛要請に従わないような人=「集団の中の異物」を排除しようとしたり、「正義の言葉」を振りかざして承認欲求を得ようとしたりする意識が働いた結果と考えられる。さらに、現代はSNSが誹謗中傷などの主戦場だ。鴻上さんも佐藤さんも、「SNSのSがソーシャルではなく、世間になってしまっている」と指摘する。

「世間」を理解した上で、私たちはコロナ禍の社会をどう生きればいいのだろう。同質性を求める「世間」の生きづらさに苦しまないようにするために、この本では「少しだけ賢い個人」になろうと提言している。今生きている世間で窒息しないような回路を見つけられる賢さを持とうと。

そして、「会社」や「学校」という強固な世間に頼るだけではなくて、趣味のサークルやボランティアなど多様な世間ともゆるくつながっていこうと。私たちはそれだけでも呼吸しやすくなるのではと、指摘する。





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