2021年ブックレビュー『ザリガニの鳴くところ』(ディーリア・オーエンズ著)
この本が書店で平積みになっていて、「全米で500万部突破」というポップ広告にめちゃくちゃそそられた。2021年本屋大賞の翻訳小説部門1位になったと聞いて、わくわくしながら手に取った。
ノンストップで読んでしまう、期待通りの読み応えだった。物語の舞台は、米国ノースカロライナ州。ある湿地で、若い男性の死体が見つかる。湿地近くの町の人々は、「湿地の少女」と呼ばれるカイヤという女性に疑いの目を向ける。6歳のとき、貧しさのために両親や兄弟に捨てられたカイヤは、たった一人湿地で生きてきた。町の人々は彼女を蔑み、差別的な態度で接していた。
湿地の豊かな生物を友として一人で暮らす彼女に手を差し伸べたのは、燃料や食料などを扱う小さな店の黒人夫婦と4歳年上の少年テイトだった。カイヤはテイトに読み書きを教えてもらい、自分の世界を広げていく。しかし、彼女に町の裕福な青年チェイスが近づいて…。
男の不審死を巡るミステリ―と、野生に生きる美しいカイヤの成長物語が交互に語られ、中盤で2つの物語が重なっていく。一番の魅力は、湿地の動植物と自然を愛する少女を形容するみずみずしい書き味だ。作者のオーエンズは実際に湿地の保護活動に力を注ぐ動物学者であるだけに、リアリティーな表現は読み応え抜群。
湿地で生き抜く力を身に付けたカイヤの気高いほどの孤高な存在感が、作品を単なるミステリーの読み物から、抜きんでたレベルへと押し上げている。
それにしても、「犯人は誰??」とずーっと考えながら読んだ私は、最後で「はぁ~~なるほど」とひとりごちた。驚きの「そうきたか!」とも思えるし、「やっぱり!」とも。本当の真犯人は、村人たちのカイヤに対する差別感情だという気もしないではないけど。
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