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頑張るとは何かを教えてくれた本『びりっかすの神さま』児童書紹介⑭
タイトルを忘れたけど、あれって何だっけ?
映画でも音楽でも本でも、そういう経験をしたことってありませんか?
私はあります。
それが、今回紹介する『びりっかすの神さま』。
テストで最下位の人にしか見えない生き物がいる、という内容だけど記憶に残っていて、作者もタイトルも全然思い出せなかったけれど、大人になってから記憶を頼りに必死に探し出した一冊です。
書籍紹介📝
書名:『びりっかすの神さま』
著・絵:岡田淳
出版社:偕成者
対象:小学校中学年
ページ数:164ページ
読了時間:大人で1時間ほど
あらすじ
4年1組に転校してきた始(はじめ)は、背中に翼があり、宙を飛んでいる男を目撃する。その人はビリの人にだけ見える神さまだった。
〝びりっかすの神さま〟とはビリになった人が心の声で会話ができる。同点でビリになった人がいれば、その人とも心で会話ができるようになる。それを知ったクラスメイトたちは、皆びりっかすの神様見たさに、自ら進んでビリを目指し始める。
ところが、クラスの大半が同点でビリを取るようになると、子供たちの間にある疑問が浮かんでくる。
ビリとは何か、競争とは、勝ち負けとは・・・
最終的に子供たちが出した結論に、一番になるより大切なことを教えられる物語。
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ここが読みどころ
始のお父さんは過労で、早くに亡くなってしまい、お母さんは始にこうつぶやきます。
「そんなことではひとには勝てん、お父さんの口ぐせだったわ。でも、ひとに負けないように仕事をするって、そんなにいいことだったのかしら。
(中略)
もしがんばるっていうことが、お父さんみたいに生きるっていうことだったら、……ひとに勝つことが、がんばるっていうことだったら、始、お母さんはあなたに、がんばってほしくなんかないのよ」
始はこのお母さんの言葉を受け、人に勝つとは、頑張るとは何かを考えるようになるのです。
クラスでは、びりっかすさんと話したいために、ビリになりたい人がどんどん増え、皆でビリになるために同点を取るなど工夫が生まれます。
しかし同時に、ビリを取るために頑張ることが正しいのか、皆で議論が始まります。
頑張っている人がいる中で、頑張らずにビリになる。いや、ビリになるために頑張っている自分たちは、頑張っている人たちをバカにしているのではないか、と。
子供たちの関心は、テストの点からリレーの話に移ります。クラス対抗リレーとなると、どの子も負けたくない。でもビリにならないと、びりっかすの神さまが見えなくなるし、一生懸命走る子に申し訳ない。
こうした葛藤が続く中、運動会当日を迎えます。
ここから先はネタバレになります👇
結局、クラス対抗リレーでは皆が一生懸命走り、クラスが一致団結して一番を目指して奮闘するのです。その懸命な姿に、クラスの皆も、びりっかすの神さまも、みていた親御さんたちも、皆が心を動かされます。
見事なチームワーク力を発揮した始たちは、一等賞を掴むことができるのですが、、、。
ビリでなくなった始たちに待っていたものとは。
何のために頑張るのか
リレーが終わった後、お母さんと始はこんな会話をしています。
「一組のいいところはチームワークねえ。ほんとにみんなが力をだしきってるって感じがしたわ。(中略)
あなたの足のはやいのは知っていたけど、一番になったとき、感動しちゃた。(中略)一番になるためにがんばるな、なんてお母さんいったけど、本ほんとうにうれしかったわ。」
「ぼくもうれしかったよ。でもね、お母さん。ぼく、一番になるためにがんばたんじゃないと思うな」
「それ、どういうこと?」
「本気で走ったってことさ。みんな本気で走ったんだよ、お母さん。ほかの組の子も」
一番になるためにがんばたんじゃない。本気で走ったってこと。
この始の言葉に、思わず考えさせられました。
勉強でも、スポーツでも、仕事でも。
何のために頑張るのか、その答えを見失いそうになる時があるかもしれません。しかし、「一番になることがすべてじゃない」という、始たちが出した答えに、すべてが詰まっている気がします。
足が速い子も、そうでない子も、リレーというある種の競争に皆が本気に向かい合っている姿がとても清々しく、頑張るって素敵だと思わせてくれるお話です。
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この本は「読書感想文にオススメの本」としても紹介されていることも多いので、ご存じの方も多いかもしれません。
ぜひお子さんと一緒に読んで、そこで感じたことをぜひ自分の言葉で感想文に落とし込んでみてください。