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私と同じ年齢

もう20年以上も前、タイタニックという大ヒット映画を見ていた時のこと。

ワイワイガヤガヤ、同い年の女友達と連れ立って入った映画館の椅子に身を委ね、物語に没入していたその時、(沈没しつつある船で乗客が逃げ惑うシーンだったか)並んで見ていた隣の友人から声をかけられた。

「あのお母さん、私達と同じくらいの歳じゃない?」

不意をつかれた。
質問の内容と、質問のタイミングに。
何と答えていいのかわからぬまま、私の中の映画は、その場面でいったん中断され、彼女の言う「ヒロインのお母さん」の年齢を計算するのに、数秒。(ヒロインが20歳として、その母親は少なく見積もって40歳+)
その年齢と自分の年齢を比較するのに、数秒。

そうか、あのお母さん、
私と同じくらいの歳か。

そこから「両者の年齢が同じということが何を意味するのか」頭の中で、謎解きが始まった。

そんな私をよそに、スクリーンの映画タイタニックは進行し、予想通り、ヒーローはヒーローらしく、ヒロインはヒロインらしく、ハリウッド映画にふさわしい感動の嵐、大団円の末、幕を閉じたのだが、クレジットロールが終わり、館内が明るくなり、席を立つ頃になっても彼女の質問の残像は私の頭の中で消えていなかった。

他愛の無い質問。
彼女自身、質問をしたことすらたぶん覚えていないくらいの質問。

後になって思った。
あの時私は、質問の内容というより、
彼女があの場面で「年齢」に気を取られた、
そのことの方に驚いたのだと。

「私達と同じくらいの歳じゃない?」

彼女の声は、私の頭の中の夜の海をあっちへウロウロ、こっちへウロウロ。救命ボートのように漂いながら、いまだ答に辿り着けていない。

あの時から、いや本当を言うと、それ以前から何度も、日常の色んな場面で、私はこれと同じ質問に出逢っている。厄介なのは、この質問、人からされるのと同じくらい
自分で自分にしているということ。

ああ、
いったいいつから人は自分の年齢について、他人と比べるようになったのだろう。何歳には何がふさわしいとか。何歳なら何をしているべきだとか。清く正しい「年齢モデル」は、いったいどこで、誰に作られたのだろう。自分がその基準を満たしていない、と思うのは何故?

ほんとに不思議。でも事実。
年齢は、時に強迫観念というオバケになって、襲ってくる。

大人になると、いろんなことが手放しで楽しめなくなるのは、そのオバケのせい?
だとしたら、なんてもったいない。
私達、みんな、明日終わってしまうかもしれないタイタニックに乗っているというのに。

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