柿の木がクリスマスツリー
「なんでこんなところに鍵フックがついているの」先日、剪定に来てくれた植木屋さんに尋ねられた。1本の柿の木の話である。
樹齢約30年、高さ6メートルほどのこの柿は
毎年収穫時には助っ人を頼まなければならないくらい今でもたわわに実をつけてくれる。
秋には枝がしなるほど沢山の実をつけ、
冬は一枚残らず葉を落とし、
初夏には眩しいばかりの青葉をいっせいに芽吹かせて涼しい木陰を作ってくれるこの柿の木
一年の最後の月、この時期、もうひとつの役目があった。そう、もう覚えている人はいなくなったけど、もうひとつ大事な役目があった。
それはクリスマスツリーになること。
毎年12月になると、母はひとり、この木に登ってイルミネーションを飾り付けていた。
(身長150cm足らず、体重36キロ。
6メートルの木に登る母は、70代半ばまで家族をハラハラさせていた。)
それは毎年12月に里帰りする私に見せるため、母が始めた年中行事だった。
アメリカから飛行機、電車と乗り継いで家族の待つ家まで帰ってくる私に「あ、うちのクリスマスツリーだ!」と気づかせたいため、母は柿の木を特製クリスマスツリーに仕立てていたのだ。
あ、誤解を招かないよう、お断りしておくと、、実家は人里離れた山の中の一軒家ではなく、駅から歩いて10分ほど、ごく普通の住宅街。
それでも歩きながらウチの辺り、遠くからあのキラキラを見つけた時の気持ちは
・・・
一言では言い表せません。
「なんでこんなところに鍵フックがついているのか」
あぁ、それはね、植木屋さん、母の置き土産なんです。
たとえば今日のような晩秋の夕暮れ。
釣瓶落としに陽がとっぷり落ちた帰り道、
暗闇の中で私の目はあのクリスマスツリーを目指して歩いているんです。
まっすぐ。