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『海風そばにいてさようなら』(イルカーン著)の感想(#文学フリマで買った本の感想#4)
「例えば初谷むいさんと温さんのユニットでイルカーンってのがあるんですけど、あればイルカーンという一人の私性が立ち上がってくるはずなんですよ」
ポッドキャスト番組「短歌・川柳耳学問」で髙良真美さんがイルカーンについて述べた言葉で合点がいった。
そうだ、イルカーンは、イルカーンという1人の作者なのだ。
イルカーンは、温さんと初谷むいさんの短歌創作ユニット。
以前から、noteで発表されていた作品を読んでいて、独特な世界観のある歌を楽しく読んでいたのだが、一冊の本になったとき、また新たな魅力があった。
ラーメンって全部くだらなくないですか? ラメーン(笑)
これはハッピーエンドでしょうと鳩が言ってます 鳩なりの見解ですね
作品集は、10首程度の連作がならんでいる。
「1ST EP」とされているとおり、音楽のアルバムのような構成。
(なお、EPは、Erisuguri Poetriesの略ということが奥付に記載。)
かなり好きピであった 人っていうかピだよね その感じがあった
公募の結果、おふたりの関係性は「ぱよえ~ん」になりました ぱよえ~ん!
定型から自由な歌が多いが、散文詩や自由詩なのかというとそうではない感じがする。
やはり短歌の連作なのだ。
連作であることで、世界観が立ち上がり、読者は余白の多い世界に自分のイメージで補足をしながら、読者それぞれのイルカーンの世界にたたずむことになる。
合言葉は「のばら」 たいしてうつくしくはないが快晴だった野原
合言葉は、仲間であることを確認するための記号であり、意味を伴う必要はない。しかし、この「のばら」という合言葉には、特定の野原の光景が提示されている。言葉として合致していたとしても、頭に浮かぶ光景まで合致していないと合言葉にならないのだろうか。
スマホで手順を見ながらロイヤルミルクティーを作ってみている 月がきれいだがら
夏目漱石が「I love you.」を日本人的感覚で訳すと「月が綺麗ですね」になるという逸話。月の美しさを語りかけるとき、そこには相手に対する愛情や慕う気持ちがあるというものだが、この歌では、「月がきれい」であることの帰結として、スマホを見ながら丁寧に手順を追ってロイヤルミルクティーを作っている。「作ってみている」という言葉には、どこかストレートな感情に対する猜疑心も垣間見える。価値観の多様化や複雑性を増している社会環境の中で、特定の情景から特定の感情につなげることはもうできないのかもしれない。
にんにくと生姜をすったらにんにくと生姜のにおいの手 ここにいる
立つしゃもじ立ってうれしいわたしたち思い出をするのはたのしいね
繰り返しが多用される歌には、実感が強くある。
「ここにいる」「思い出をする」という確かで正確な把握。
作品のいたるところに配置されたイルカのイラスト。
表紙で向かい合う2頭のイルカは、短歌の海を自由に泳ぎ、私たちもその仲間にしてくれる。
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