永遠の積読ダンテ『神曲』を読むために~長期休暇に読む本
見出し画像はアルフォンス・ミュシャ「スラヴ叙事詩」から「聖山アトス」。
ダンテ『神曲』が本棚に眠っていませんか?
読もうと思っているんだけど、欲しい物リストに入れたまま、それっきりになっていませんか。
先日、書店で
を見つけました。
この本は『神曲』の解説本ではありません。佐藤優さんは神学修士であり、同志社大学神学部客員教授もされています。『神曲』は佐藤優さんのホームともいえる本です。内容は硬くなく、佐藤優さんが時事ネタと絡ませつつ、ともに読み進める構成です。
ダンテ(Dante Alighieri, 1265年-1321年)は『神曲』を、13世紀時点でのキリスト教のパラダイムで書きました。その目的は、宗教的世界を『神曲』内で表現するのではありませんでした。ダンテは富裕層で国政にも関与できる立場でしたが、政権交代によっての不遇(失墜)となりました。その復讐のために著したと言われています。インテリだったダンテは、『神曲』でアレゴリーとしてキリスト教やギリシア古典の知識を遺憾なく使います。
これを極論すれば、現代で、エヴァやワンピース、ドラゴンボール、ポケモンの言葉で、人生を語ることといってもいいかもしれません。
そもそも『神曲』は、メディアや映画などでいわれるような、地獄の世界を描きたかったのではありません。
『神曲』は、疲れ、傷ついた人への、癒しの書物です。
※ しばらく脱線。
ダンテから約200年後、場所同じくフィレンツェで、マキアヴェッリ(1469年 - 1527年)も、15世紀ルネッサンスのフィレンツェ敏腕外交官であったにも関わらず、政敵の権謀術数に破れ、『君主論』ほか論文を、失意の日々の中で書きました。ダンテと同様の流れです。司馬遷『史記』然り、逆境は歴史的偉業を成し遂げる思わぬ要素なのかもしれません。マキアヴェッリはダンテよりもリアリストでした。『君主論』でボルジアを理想とする具体的な政治論を著します。『君主論』は、マキャヴェリズムに代表される権謀術数主義を記述したものではありません。民主制に近い方法で、富国強兵を遂げるための理想論に近く、いわば、プラトン『国家』のルネッサンス版と言えます。強いていうなら、マキアヴェッリは外交官だったので、交渉術には長けていたため、現代的にいえばスパイ工作も辞しないというくらいです。ビジネスマン必携の書ともいわれる『孫子』の方が取られる策は過激です。
※ 塩野七生『わが友マキアヴェッリ』(新潮文庫)
※ 塩野七生『マキアヴェッリ語録 』(新潮文庫)
佐藤優さんも、マキアヴェッリと同じく、外交官から不意に追われ、いまは文筆家になられています。ダンテ、マキアヴェッリ、佐藤優さん、似たような境遇です。
佐藤優さんは『教養としてのダンテ「神曲」<地獄篇>』では、現代でも活ける、教養書『神曲』の立場を取られています。『神曲』で現れる宗教的知識を、ところどころに解説しつつ、今に活用できる『神曲』のエッセンスを伝えてくれています。
『教養としてのダンテ「神曲」<地獄篇>』で使われるテキストは、次の平川訳です。平川訳本では、各歌の前文として訳者による内容紹介の短文が添えられています。
※『神曲』は詩歌のため、それぞれの章を歌と呼ばれています。
この版で訳文・訳注に以前の版からの若干の修正がなされています。
文庫・完全版ではそれ以前に比べ、ルビ・語注が多くなっています。文庫・完全版以降は、地獄篇1歌でいえば、獣には獣、正道には正道のようにルビがあります。
この平川訳の初刊は1966年です。
平川祐弘さんは1931年生まれ、ご在命です。
わたしは、平川祐弘さんの文体を、理知ある文章の代名詞のように感じます。平川祐弘さんの文を読むと、本当に頭のいい人なんだろうと思います。
出版年は一番新しく、底本は河出文庫版。
文庫同様に、ドレの挿絵、135点すべてが収められています。挿絵で1ページを使っています。
地獄篇、煉獄篇、天獄篇に加え、ドレの挿絵総135点(つまり135ページ)で、p.660あり、比較的太めの本です。
挿絵はなく(口絵は数点あります)、本文および訳注、それと解説(総括)です。
ハードカバーで、地獄篇と煉獄篇と天獄篇がすべてが収録されています。『神曲』の一冊本では比較的コンパクトです。
平川祐弘さんによる詳細な解説書はこちら
『教養としてのダンテ「神曲」<地獄篇>』では、引用が平川訳なだけです。『教養としての~」読むにあたり、平川訳を使わなくても読み進められます。
平川訳の難点は、各歌の解説がないことです。『神曲』は、一般人にとって何冊も所有する本ではありません。2022年時点、所有するなら、こちらの方がいいかもしれません。
2022年時点で最も新しい訳文です。読みやすい!!
全体の解説に加え、各歌ごとの解説が約100ページ載っています。
語注が、脚注として左ページにあります。読みやすい!
挿絵はありません。
地獄篇の巻末「新訳の必要性」に各翻訳についての原さんの視点が述べられています。本選びに迷われている方は一読してみてください。
また、
須賀敦子(翻訳), 藤谷道夫 (翻訳・解説)『神曲 地獄篇: 第1歌~第17歌』 (須賀敦子の本棚 1)
もっとも読みやすい訳文です。
惜しむらくは、地獄篇34歌のうちから第17歌までしか収録されていません。須賀敦子さんは本格的に翻訳を進めていたのではなく、この本は、須賀さんがダンテ理解のために自習していたノートから選出したとのことです。
藤谷さんの各歌の詳しい解説、また語注が載っています。各歌の解説だけでもこの本を見る価値があります。ほかの訳本に載っていない内容が多いです。
ドレの『神曲』が欲しい方は、
抄訳、というより超訳です。
左頁にドレの挿絵、右頁に該当部分の本文があり、漫画のように読み進められます。
個人的には、平川訳 神曲【完全版】は大きすぎるので、平川訳 『神曲』1992年と、必要に応じて谷口江里也『ドレの神曲』で揃えてもいいかもしれません。
もちろん、しっかり『神曲』を読まれたい方は、原基晶訳『神曲』(講談社学術文庫)で揃えられるのをおすすめします。
地獄篇34歌は、一日3歌ずつ音読して1時間ほど、長くて12日で読み切れます。このペースを保てば、1ヶ月ですべて読み終えます。ちょっとした時間を工夫すれば、『神曲』を読破できます。
『教養としてのダンテ「神曲」<地獄篇>』は、積ん読の苦しみのなか、やわりと背を押してくれます。立ち読みだけでもすると、本棚に佇む『神曲』を手にする勇気がでるはずです。
『教養としてのダンテ「神曲」<地獄篇>』で取り上げられた書籍
魯迅『狂人日記』(岩波文庫『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』)
例として「耐エントロピー構造」の用語
カール・バルト『教会教義学』(教義学要綱【ハンディ版】新教出版社)
Vシネ『日本統一』(52作あるようです)
ユヴァル・ノア・ハラリ
『きけ わだつみのこえ』
ゲーテ『ファウスト』
ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
最後に
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