誤訳のパターン3 単語の読み違い
間違っている翻訳、つまり誤訳にはいくつかパターンがある。
今日は記憶の想起不良や注意不足による「単語の読み違い」について訳文を挙げ、対策を考える。
trackは誤訳の多い単語
There’s tramlining where vehicles have squashed parallel tracks into the road, but nothing more than a gentle tug of the wheel.
車両が並行するトラックを道路へと押しつぶした路線があるが、車輪が穏やかに引っ張られた以外の形跡はない。
どこがおかしいか。一瞬で分かる人も多いだろう。trackは「トラック」ではない。日本語の「トラック」に当たる英単語は truckだ。テストやトライアルで間違える翻訳者はいない。だが、実際の案件だと頻繁に誤訳されている単語である。
もちろんこれは、次のような訳になる(英文も再度載せておく)。trackは動詞として「~の後を追う」と覚えている人が多いだろうが、名詞の場合「小道、轍、軌道、走路」といった意味がある。辞書で引いてみてほしい。
There’s tramlining where vehicles have squashed parallel tracks into the road, but nothing more than a gentle tug of the wheel.
車両が道に轍をくっきり刻んでいる場所も、車輪が軽く引っ張られるぐらいだ。
間違いやすい単語というのはある
trackとtruckはたしかに間違いやすい。だがほかにも、一文字違いやぱっと見で似ている単語というのは多い。代表的なもの(わたしがこれまで複数回見てきた間違い)を挙げておく。
注意力が大事、だが……
これらの語を読み違えないようにするには、集中力を切らさないようにコンディションを整えておくのが大前提である。
だがそれだけでは難しい。セルフチェックで見抜けるようになるには、「この訳文では日本語がおかしいと気付く」ことができると強い。
とくに翻訳チェッカーや翻訳校閲者ならば、他人の訳文(日本語)を見るのが仕事だ。原文の英語だけではなく、日本語を見て「どこか引っかかる」感覚を備えなければならない。
「おかしい」と思えば原文ファイルを拡大して、単語のスペルをたしかめることもできる。辞書や文法書を引くこともできるのだ。
日本語を毎日トレーニングする
日本語のトレーニングについては、明治大学齋藤孝教授が勧めている「1分間・速音読」が手軽にできて効果抜群。実践して1週間で効果を実感できる。詳しくは ↓ に書いたとおり。
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翻訳者なら誰でも、必死で英語を勉強する。毎日、英語を音読したり筆写している人も多い。だが、日本語をトレーニングしている人はどれだけいるだろう。
こういうことの積み重ねで、小さな誤訳が減っていくし、日本語として自然な訳文も書けるようになる。努力は裏切ることもあるかもしれないが、日々の鍛錬に裏切られることはない。