心の傷を癒すために:トラウマやPTSDと向き合う認知処理療法
先日、厚生労働省が委託開催した心的外傷後ストレス障害(PTSD)の認知処理療法(CPT)の研修に参加しました。
私たちの身の回りでは、思った以上に多くの人がトラウマを抱えて生きています。例えば、世界保健機関(WHO)の調査によると、日本人の約60%が生涯の中で命にかかわるような体験をする可能性があるとされています。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症率は約1.3%と言われており、多くの人がトラウマ体験によって苦しんでいることがわかります。
今回は、トラウマをテーマに少し書いていきたいと思います。
1.トラウマとは何か?
トラウマとは、個人が対処しきれない強いストレスや衝撃的な出来事を経験した際に生じる、心理的な傷や障害を指します。これには、自然災害、事故、暴力、虐待、戦争など、生命の危険や深刻な恐怖を伴う体験が含まれます。
2.トラウマが心に与える影響
トラウマは、私たちの心の中にある「信念」や「価値観」を大きく揺さぶります。たとえば、「人は信頼できる」と考えていた人が、暴力を経験したことで「この世は信じられない」と思うようになったりします。また、自分を責めてしまう傾向が強くなることもあります。「こんな目に遭ったのは自分が悪いからだ」といった考えに囚われることがあるのです。
こうした信念の変化は心の痛みを増幅させます。そしてその痛みに直面することを避けようと、考えないようにしたり、できるだけ思い出さないように関連することから避けたりします。本当につらい時は、一時期離れることも大切なことだと思います。しかし、回避しつづけることで、トラウマとして残り続け、フラッシュバックや不安が続いたり、気分の変化が起こるなどの症状が現れることがあります。
3.適切なケアの重要性
トラウマに向き合うことは、とてもつらい作業です。しかし、上記にあげたように放置し続けること、心の傷が癒えず深まることもあります。例えるならば、怪我をして釘が刺さったままの状態で何もしないようなものです。適切な処置がなければ、傷は治りません。
4.認知処理療法(CPT)とは?
トラウマ体験によって生じた認知の歪みや不適応的な思考パターンに焦点を当て、それらを修正することでPTSD症状の軽減を図ります。これにはしっかりとしたエビデンスがあり、認知行動療法(CBT)の一種として広く研究されています。
具体的には、トラウマ体験の意味や、それが自己、他者、世界に対する認識にどのような影響を与えたかを検討し、適応的な認知へと再構築していきます。これにより、トラウマによって生まれた信念を柔軟にしていく手助けができるのです。
5.CPTがもたらす効果
認知処理療法を受けることで、トラウマに関連する不安や恐怖を少しずつ和らげることが期待されます。避けてきた出来事や感情と向き合えるようになることで、生活の質を改善することが可能になります。
6.エビデンスあるアプローチの重要性
私はこれまで、認知行動療法やアクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)など、科学的根拠(エビデンス)に基づいた心理療法を学び、実践してきました。今回の研修を通じて、CPTの重要性を改めて感じています。エビデンスに基づくアプローチを提供することで、多くの人が心の重荷から解放される手助けができると信じています。
トラウマは誰にでも起こり得るものですが、適切にケアを行うことで、その影響を軽減することができるかもしれません。認知処理療法は、トラウマによる苦しみを和らげるための有効な手段です。一歩を踏み出す勇気を持ち、心の傷に向き合うサポートを提供していきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。