自己比較が鍵を握る:長期的なやる気を保つための褒め方
愛する我が子と他者の子供とを見比べる瞬間―それは止めた方が良い。
育児の日々は、「あなたはクラスで一番だよ!」「○○ちゃんよりも上手にできたね!」など、他者との比較を元にした褒め言葉が自然と漏れ出ることがあります。
その言葉が、子供の行動や能力を一時的に促進するという経験をした保護者の方も多いかもしれません。
この事実は、複数の研究でも支持されています。
社会的な比較を通じた褒め言葉は、子供を短期的には強く動かす効果があるということです。
しかしながら、ここで問いたいのは、このような比較が子供の長期的なやる気を後押しできるかどうかです。
人生は流動的で、子供が通う学校や塾が変わり、順位が下がることもあります。
もし、その子供が比較を通じて成長を遂げているとしたら、更に競争の厳しい環境に置かれ、以前のような成果が得られない可能性も出てきます。
例えば、地元の学校では頭角を現したその子も、難関校に入学すると成績が下がることは決して珍しくありません。
このような場合、比較をもとにしたやる気だけでは、その子のやる気を削ぐ恐れがあります。
加えて、たとえ環境が変化しない場合でも、他者との比較は勉強の結果に基づいています。
これは外発的な動機付けに相当し、長期的な視点から見れば、心や体の健康にマイナスの影響を与えてしまう可能性があるのです。
「親の「先入観」が子どもの未来を縛る
褒め方について理解した上で、親が子どもに対して気をつけなければならない別の要素が存在します。
それは、親の先入観や決めつけが子どもに重圧を与え、その可能性を限定してしまうことです。
例えば、「君は女の子だから、言語に長けているよね」。こういった日々の何気ない声かけにも、意外とリスクが潜んでいるのです。
そのリスクを理解するために、「ステレオタイプ脅威(stereotype threat)」という概念を考えてみましょう。
これはスタンフォード大学の心理学教授であるクロード・スティールらの研究により広く知られるようになった概念です。
「ステレオタイプ」とは、人種、性別、年齢などに関する固定的な観念や決めつけのことです。
「この民族はあの民族よりもスポーツに優れている」
「男性は女性よりも理系分野で優秀だ」
このようなステレオタイプは、科学的に否定的根拠を示しているにも関わらず、依然として社会に深く根ざしています。
そして、「ステレオタイプ脅威」とは、このような否定的で誤ったステレオタイプにより、意識することで予想通りの悪影響が引き起こされてしまう現象のことを指します。
例えば、「女性は理系に向いていない」。これは誤ったステレオタイプですが、なおざりにされることなく、強く意識され続けています。
子供の能力や性格に対する先入観は禁物
例えば、女子高生のももかさんが数学のテストを受けるとします。テストを始める前に、自身の性別をチェックする項目があり、ももかさんは「女性」にチェックを入れてテストを始めます。
そして驚くべきことに、このようにももかさんが自身が女性であるという事実を意識しながらテストを受けた場合、意識せずに受けた場合よりも、その成績は低下する傾向にあるというのです。
その理由は単純で、誤ったステレオタイプを意識することで、無意識の間にプレッシャーが生まれ、実際のパフォーマンスに悪影響を及ぼすからです。
このようなステレオタイプ脅威は、人種や性別、年齢などに関するものも含め、数多く存在することが確認されています。
加えて、ステレオタイプによるラベリングは、子どもの能力を一定のものとして意識させ、固定思考(fixed mindset)に繋がってしまいます。
事実、「あなたは数学が得意じゃないから」「君は運動が苦手だよね」などといった、親や教師からの日常的な言葉が、子どもたちに能力のレッテルを押し付けて、固定思考を生み出してしまっていることが、これまでの研究により明らかになっています。
そのため、子どもの能力や性格を一定のものと断じ、これからも変わらないという形で語ることは、非常に注意が必要です。
前述の通り、固定思考は子どもの成長を阻む障害となります。私たちが育てるべきは、まさしく「成長思考」なのです。
そんな訳で、「勉強ができない」と言って子どもを育てると、本当に勉強ができない子どもになってしまう可能性があるということを、心に深く刻んでおくべきなのです。
「善意の枠組み」もまた、子供の自由を束縛する
一見、否定的なステレオタイプだけでなく、肯定的なステレオタイプに対しても警戒心を持つことが大切です。
例えば、「あおいちゃん、小さい頃から国語が得意だったね、女の子だからさ」、「君はお父さん似で、学問が得意なんだね」といった発言。これらは一見肯定的な表現に見えますが、実は性別や血統といった不変的な要素に対する烙印を押してしまっています。
自身が変えることができない属性に対しての肯定的な期待は、時として過度なプレッシャーとなりえます。
将来的に、国語の成績が落ちたり、学問に困難を感じるようになったとき、「女の子なのに国語が得意でないなんて」、「お父さんの子供なのに」と自己否定に陥ってしまう可能性があるのです。
このように、生まれながらに持っている属性を肯定的に受け入れることが、逆に過大なプレッシャーとなり、反対にマイナスに働くことがあるのです。
このような形で、子供を優しく支えるための肯定的な烙印が、予期せぬ危険を孕んでいるということを認識しておくべきです。
否定的でも肯定的でも、子供に烙印を押しすぎないよう、常に心に留めておくことが大切です。
絶対に避けるべき「子供を縛る発言」
続いて、子供が間違えたときの声かけについても見ていきましょう。
間違える瞬間こそ、学びの大チャンスと言えます。
その重要な瞬間に、否定的な発言を浴びせてしまうと、子供は心を閉ざしてしまうでしょう。
子供の学びの姿勢を萎縮させ、間違えることから逃れる癖がついてしまうと、学びの機会を逸してしまいます。
では、誤った声かけの例を挙げて考えてみましょう。
「そんな簡単な問題、なんでできないの」
理解してはいても、ついつい感情が高ぶってしまうと、このような発言が出てしまいます。
まず、問題が「簡単だ」などと決めつけてはなりません。
「簡単なはずなのに、自分にはできない」と子供に感じさせると、学びそのものが嫌になってしまいます。
学習の難易度や教材のレベルは、子供の現状の進度や能力に合わせるべきです。
親が思う難易度のレベルに子供を無理矢理合わせようとするのは本末転倒で、逆効果になってしまいます。
もし、教材のレベルが子供の現状の学習進度に合っていないのであれば、子供を非難するのではなく、適切なレベルに達するための具体的な支援を検討したり、現在の教材が子供に合っているかどうかを再評価してあげるべきです。
学ぶ意欲、揺るぐ…
「残念な結果だね」
「残念だ」という表現は、親自身の否定的な見解を無理矢理押し付けてしまうところが問題です。
せっかく課題に向き合い、その結果が愛する人を失望させる…こんな経験をさせてしまったら、学びへの情熱は揺らぐばかりです。
子どもが誤ったり、学習の結果が目指す水準に達していないときは、主観的な否定的な発言を慎みましょう。
その代わり、より客観的な視点から接近し、何がどう間違っていたのか説明し、子どもが次へ進むための指針を提供しましょう。
「再度試してみて」
確かに、一部の学習過程には反復練習が必要です。
しかし、一度うまくいかなかったことを単に繰り返すように指示するだけでは、何をどう改善すべきか見当がつきません。
「再度試してみて」と促すのであれば、2回目の試みに向けたアドバイスや指導を提供した上で、再挑戦を促すべきです。
単に「もう一度やれ!」では、どのように挑戦すればよいのか分からず、ただただ学習への抵抗感が強まるだけです。
子どもが失敗したときこそ、それは「極上のチャンス」
子どもが課題に失敗したとき、まずは、その課題に取り組もうとした子ども自身をほめてあげましょう。
教材の難易度が高いにもかかわらず挑戦したこと、間違いから新しい知識を得る機会が得られたことなど、その行為自体を肯定的に評価するのが最良の接し方です。
子どもが間違えたときには、以下のポイントに気をつけて、声をかけてみてください。
1.間違いそのものが脳の学習に非常に効果的であることを伝える。
2.挑戦すること自体を評価する。
3.自身の否定的な主観を表すのではなく、間違いを客観的に説明する。
4.問題が子どもの学習レベルに合っているかを見極める。
5.再挑戦を促すときは、どのように進むべきかを助言する。
これらの観点に基づくと、次のような声かけが可能となります。
「それは難しい問題だったね。でも、よく挑戦したね。ここはこのようになっていて、そうするべきだったんだよ。このポイントを覚えて、次はこの問題に挑戦してみてはどう?」
また、子どもが課題に向き合い、間違えるのではなく、「わからない」と報告することもあります。
その際も、上記の思考法を適応させてみてください。
何かが理解できないと感じるのは、その事柄について深く考えた結果です。
まず、その姿勢を認めてあげることから始めましょう。そして、問題の解き方を教えたり、ヒントを出してあげましょう。
一方、「わからない」は、その課題をやりたくないという意思表示である場合もあります。
そんな判断が下されたら、現在の学習法や環境が子どもの学びに適していないとみなし、どの部分を改善できるかを考えてあげてください。
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