#映画感想文346『侍タイムスリッパー』(2024)
映画『侍タイムスリッパー』(2024)を映画館で観てきた。
監督・脚本は安田淳一、出演は山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの。
2024年製作、131分、日本映画。
高坂新左衛門(山口馬木也)は会津藩の侍で、長州藩士を討つために京都に来ていた。闇夜の中、長州藩士と相対したとき、雷が落ちる。目覚めると高坂は2000年代初めの京都の時代劇撮影所にタイムスリップしていた。
はじめ高坂は周りが演じていることに気が付かず、挙動不審な行動を繰り返す。撮影スタッフは変なエキストラが紛れ込んでしまったと苛立つ。高坂は徐々に自分が幕末から現代に来てしまったことに気が付く。もちろん、現代には侍の仕事などない。高坂は撮影所で斬られ役として生計を立てていくことを決める。
高坂は時代を変えようとしたり、過去に戻ろうとしたりはしない。ただ、過去の歴史を知り、忸怩たる思いを抱えるようになる。戊辰戦争に負けた会津藩がその後に受けた制裁などを知り、ひどく苦しみ、ある決断をする。
時代劇を観なくなった現代人は、歴史に興味を失っているともいえる。幕末の日本と現代日本が断絶しているのかといえば、そうでもない。歴代の総理大臣を最も輩出しているのは長州藩、現在の山口県である。勝てば官軍は、令和になっても続いている。
本作は、時代劇の殺陣とは何かが学べる作品でもあるし、時代劇が失われてもいいのかという疑問を投げかけている作品でもある。
口コミで公開劇場数が増えたという記事を読み、非常に評判がいいので観に行ったのだが、ベタの楽しさもあったと思う。『暴れん坊将軍』『遠山の金さん』『水戸黄門』といった時代劇を考えると、登場人物のエピソードは異なれど、ストーリーの起承転結は同じで、安心安全の勧善懲悪で、視聴者を落胆させたりはしない。本作でもそれは踏襲されている。
終盤の殺陣のシーンには思わず手に汗握る迫力があった。製作費は2,000万円で、いわゆるメジャーな俳優は出ていないが、十分に楽しいコメディだった。ただ、このようなやり方は、製作者や出演者がどう考えても無理をして、持ち出しでやっているので、優れた脚本や企画にきちんと出資するシステムができることを願うばかりである。