カル・ニューポート(2016)『大事なことに集中する』の読書感想文
カル・ニューポートの『大事なことに集中する 気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』を読んだ。2016年にダイヤモンド社より出版された単行本で、原著のタイトルは『DEEP WORK』である。
著者は、MITでコンピューター・サイエンスの博士号を取得し、ジョージタウン大学で働いている大学の先生である。
同じ著者の『デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方』を読み、こちらも気になり、手に取った。
著者は、この本で「ディープ・ワーク」を推奨している。
現代のわたしたちは、シャロー・ワーク(shallow work)ばかりになっており、知的思考もなく、生産性も低く、誰でも容易に再現できる仕事ばかりだ、と著者は指摘する。
本書の冒頭で、年収400万程度の金融コンサルタントから集中して勉強をすることで、年収1000万になったプログラマーのベンが紹介される。
ベンは、プログラミングの勉強を本と紙、ペンだけで行い、パソコンは一切使わなかったのだという。大学で4年間をかけて勉強する内容を2か月で終え、プログラミングのブートキャンプに参加し、彼はプログラマーになり、シリコンバレーで働くようになり、年収は倍以上になり、どんどん増えていったという。
そして、彼は、これからの時代に必要な能力を以下の二つだと述べている。
著者は、iphoneやTwitterなどは、消費者製品であってツールではないと断じている。そして、facebookで得られるものの空虚さ、売れていない作家のTwitterによる宣伝活動など微々たる営業力しかなく、ほとんど意味がない、と木っ端微塵に、凡人の努力を粉砕していく。(数字に強い人は残酷だなと改めて思う)
ディープ・ワークとは、難しいが重要な知的作業をまとめて、長期間、中断することなくつづけること(p.37)なのだという。
メールの返信一つで、注意散漫になり、作業効率が落ち、完成が遅れることを深刻に考えるべきだと著者は主張している。確かに、それが一日に何度もあれば、どんどんずれていき、品質自体も低くなることは容易に想像できる。
ディープワークを実践するためには、日課として行うこと、コーヒーを飲んでから行うなどの儀式化、場所を決める、などをしておき、精神エネルギーを浪費しないようにと述べている。それに加え、集中するために散歩や瞑想を勧めている。
著者は、かなり恵まれている人なので、話半分に聞いておいたほうがいいという側面もある。彼には、家事や子育てをしてくれている奥さんもいるし、MITでお金の心配をせず博士号を取れるなんて人は滅多にいない。この本は、長時間サービス業などで働かなければならない人、子育てや介護で忙しい人などは、まったく想定されていないので、いろいろ差し引いて、読んだほうがよい。
ただ、著者と同様に、注意散漫であることが幸福だとは、わたしも思えない。膨大に無駄で余計な情報に触れ、楽しかったのだけれど、なんだか疲れていて、何もやる気がしない、という日々が、ここ数年増えてしまった。せっかくの休日を朝から晩までSNSで終えたという経験の人もいるだろう。楽しくて充実感があればいい。しかし、わたしは、嫌な疲労感と働かない頭を抱え、鬱っぽくなることが多い。
ディープ・ワークは、たぶん、できないと思う。正直、集中して作業をするのは、2時間ぐらいが限界だ。
ただ、スマホからは意識的に離れて、あえて退屈する時間を作り、漫然と思考する時間を確保したいと思っている。正直、スマホをスクロールしているときも、退屈なのだけれど、あの行為は延々と続けられてしまうのだから、恐ろしい。
SNSに興じるわたしの脳みそは広くなると同時に狭くなっている感じがする。
さあ、集中しよう。
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