読書 不時着する流星たち *小川洋子*
前回の「人質の朗読会」に続き、また、10編の小川ワールドです。
ハッピーエンドな恋愛小説ではなく、犯人を追い詰めるサスペンスでもなく。人生指南本でも自己啓発本でもない。死にゆくであろうと想像させるけれど、やさしい慰めの死ではない。
全ての話には、着想を得た物や人物がおり、読み終えた後にその人物を知ることになる。帯にも書かれているが、世界のはしっこでそっと異彩を放つ人々について、深く調べたくなる。
周囲の大勢多数から見ると、奇妙かもしれない。おかしな人と呼ばれるかもしれない。けれど、自分の大切なことや使命感、どうしても変えることのできない習慣、これこそが私なのだと疑わずに淡々と生きている。そんな人たちが、どの話にもいた。私の住む世界にも、それこそ身近に。思うように生かせてあげられなかったであろうことへの自責の念で溢れたが、何故かそれがすごく羨ましくもあり、「私はこの人になりたい」と思うほどだった。何かに執着しながらでもいい、熱心に生きてみたいと。
30年以上生きていて、覚えていることよりも、忘れたことの方が遥かに多い。でも、読んでいるとふと蘇る感覚がいくつもあった。光るような思い出も、砂を噛むような感情も。何もないような毎日の中の、あの人との会話も。
小川さんの本(今回と前回の記事分)は、読み終えた後に「はぁ、何ていい本!」と爽やかな気分にはならない。色んな矛盾や怖さ、生と死の間の何か、暗い中だからこそ見える希望、何だかそういったものがぐるぐるする。咄嗟に、私の背後に隠してしまいそうになる本。大事にしたい。
直接的ではない表現がたくさん詰まっている気がする。なので、生きづらさを感じている方や、誰かを亡くされた方も、押し付けのない1冊として読んでみてもいいかもしれない。私がそうだったので。
装画と挿絵がまた。現実なのか、虚構なのか、華やかでありながら異様な雰囲気も浮かんでいる。すごく素敵でした。