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修親投稿記事

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記事一覧

父から受け継いだもの

『父から受け継いでいるもの』
 
一 早朝の日課
 日曜日を除く朝、朝といってもまだ夜が明けない暗い二時とか三時、起きると目覚めの珈琲を飲み、机に硯、筆、文鎮を揃え、用紙を置き、硯に墨汁を入れてから般若心経の写経を始める。これが日課となって約十か月が過ぎ、写経は二百五十枚を超えた。
 文鎮は、四十年前に父に頼んで作ってもらったものであるが、私が幹部候補生学校の区隊長時代に卒業記念として候補生一人ひ

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月下独酌

一 はじめに
『月下独酌』とは、春の夜の庭で自分の影と月を友にして宴会をするという幻想的かつユーモラスで孤独感も漂う盛唐の詩人・李白の詩であるが、李白が宮廷を追われる直前の四十四歳の春に作られたとされている。
私が月下で独酌を始めたのは一年前である。始めたきっかけは李白の詩に魅せられていたからだけでなく、異なった時と場所において醸成された二つの環境がコラボし、私を風情ある世界へといざなってくれたこ

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旅ごころ

「この歳になって、旅の楽しみ方もずいぶん変わったような気がしないかい」
夫は歩きながら、私のほうを向いて言った。
「そうね、あの頃はこんな感じで楽しむことはなかったかもね」
私は、深い意味も考えずに言葉を返した。
主人が定年退職して結婚記念日に計画してくれた旅のハイライトは、嵐山にある特別公開された宝厳院の庭にライトアップされた見事な紅葉だった。人の波の流れのままに歩きながら、その景色がゆっくりと

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古代山城を歩く

一 はじめに
 「やっと完成したぞ」
約二十五年前、富士学校で中国地方一帯を作戦地域とした約五百㎞に渡る遅滞行動の新規想定を作り上げた時には喜び以上に精魂尽き果てていたのだが、
「あれ、古代の日本の防衛体制と重なりますね」
その想定を見た同僚からそう言われことがきっかけとなり調べてみた。高校で習った「白村江の戦い」や「太宰府」「大野城」「水城」「防人」という「九州北部の古代の防衛体制」及び「万葉集

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ゆらぎ

一 青春の影
 「いくじなし」
 いちょう並木が黄色く色づき、落ち葉が木枯らしに舞う舗道を歩いた先の別れ際に言われた一言で二年間続いた二人の関係に終止符が打たれた。
 覚悟していたとはいえ、途方に暮れ、人生に希望を失い、そのまま命を絶とうとまで思い詰めた和実だった。まだ、生きているのは、友人のおかげだった。駆け付けてくれた友人が、和実の心が落ち着くまでそばにいてくれたことが和実の衝動的な行動を制し

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かつての肩書を活かすか殺すか

私は、陸上自衛隊を定年退職して9年経ち、第2の人生もまもなく終了し第3の人生に進む段階になってきました。
 冒頭から過激なタイトルを掲げましたが、「元自衛官」という肩書はなかなか厄介なもので、いろいろな集まりで会話をしていると「日本の安全保障」について意見を求められたり、協力を頼まれたりすることが多々あります。
 ある大学で5月連休明けに「我が国の安全保障」に関する話をしましたが、内容的には若い会

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