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山で不思議な目にあう変な仕事 ※ちょっと怖い話です
一人で関東近郊の山を歩いていた。登山で行くような山ではなくて、田んぼの脇から入るような、集落のそばの山だった。
山の上に目的地があって、朝登り、調査をして折り返して同じ道を通って帰る。お昼すぎには終わる予定だった。簡単な内容かつ近くの別の山に他の調査員がいるので、一人だった。
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ひとまず山の上の方に続いていそうな作業道を進む。何年か前までは使われていたのだろう、道はしっかりついているが、草が生い茂っている。20分ほど歩いたところで地図と照らして、このまま行けば目的につけそうと分かる。道がない中を進まないといけないことも多いので、ホッとする。
ここまでは良かったのだけど、道がいつのまにか谷底になっていた。谷は雨の時に水が流れるので、道にすることはまずない。かつては谷の脇に作業道をつけていたのだろうけれど、崩れてしまったようだ。両脇の斜面は切り立っていて、標識のポールくらいの太さの竹がびっしりと生えているので登れない。引き返して別ルートを探す時間もない。そのまま進むことにした。
そのうち、両側の斜面に生えている竹がどちらも谷底に向かって倒れているゾーンに差し掛かった。左右から倒れた竹はちょうど谷底で組まれていて、通せんぼされているようだ。竹のすき間を見つけて体をねじ込むようにして進む。進もうと前に動くと、気付かぬところにあった折れた竹の断面が太ももやお腹に刺さり、痛い。きっと青痣がたくさんできているのだろうな。
追い打ちをかけるように地面がぬかるんできた。今回の地点は外れだ。早く終わった人達でラーメンを食べに行こうとしていたけど、私は参加できなさそう。
ぬかるみに足跡をつけながらなんとか這うように進む。1時間くらいで竹ゾーンを抜けて、また獣道のような作業道がはっきりしてきた。助かった。
少し登った山中にお地蔵さんがあった。人里に近い山ではよくあることで、他の調査員には必ず拝むという人もいるが、私はあまり気にしたことがなかった。通り過ぎようとしたとき、あるものが目に入ってギョッとした。ゴルフボールだった。山にあるものは多くが茶色か緑色っぽい中で、無機質な白が浮いている。よく見ると古いものもあって、合わせて20個ほどのボールがお地蔵さん周辺に落ちていた。近くにゴルフ場があるのだろう。きっとお地蔵さんの周辺以外にも落ちていたはずだが、その時は「お地蔵さんに対して打ち込まれている」と思った。なぜか改めて、声の届く範囲には誰もいない、自分が一人であることを認識して、心細くなる。
お地蔵さんには申し訳ないけど今は調査だ、と先に進み目的地に着いた。3時間ほどで調査が終わった。またあの竹の地獄を通るのかと思い地図を確認すると、やっぱり来た道を戻るのが一番早く安全に山を降りられそうだ。
またお地蔵さんに会う。調査が終わって少し余裕があるのでごめんなさいという気持ちを込めて手を合わせる。
ぬかるみ竹倒木ゾーンが始まる。
しばらく這うようにして進み、あるところで通れそうな隙間が地面近くにしかなくよいしょっと身を屈める。地面が近づいて、靴の足跡がついているのに気づく。行きで通った自分の足跡だ。そして、それにピッタリと寄り添うように別の足跡がついていた。行きはなかったから、私のあとに誰か通ったのか。おかしい。人が通るような場所ではないし、誰にも会わなかった。そこまで考えて、もっとおかしいことに気づいた。よく見ると靴底に模様もなくのっぺりしている。もし本当に足跡だとすると裸足のように見える。実際に裸足の人がいたら自分の身が危ない可能性があるし、いないのに足跡がついていたら霊的な話になってしまうし、どちらにせよ変だ。とにかく帰ろう。
まだ昼すぎのはずなのに折り重なる倒木のせいか、異常に暗い。一刻も早くここから離れたいのに、倒木の間を縫うようにしか動けない。手先が冷えていくのを感じる。暑くもないのに汗がどんどん出る。
その後は、みんなでラーメンを食べたような気もするし、気の所為だと笑われた気もする。
万が一、人だったらと思って撮ったはずの足跡の写真がスマホのフォルダーに見つからなかった。
※この仕事を始める前に同じ業種でバイトをしていた頃の話です。
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