ありがとうを繋げるだけの簡単なお仕事
「あら、いつもありがとうございます」
満面の笑み。
どうやら私は週に一度、計3回ほど通っただけでドラッグストアの店員のおばちゃんに顔を覚えられてしまったらしい。
会計レジへ行くたびに某ファーストフード店顔負けのスマイルがもらえるなとは思っていたけれど、お客全員に共通する「いつも」なのだと思っていた。ところがこの間ついに、明らかに「お馴染みのお客さん」として雑談を投げかけられた。あれはやっぱり、私向けスマイルだったのか。
それにしても毎日顔を出すならまだしも、用があるのは週一程度、しかも曜日はまちまち、なんなら行かない週だってあるくらいの客の顔を、そんなにすぐ覚えられるものだろうか。私も接客業をしていたからわかるけれど、さすがにこの程度の頻度のお客さんはせいぜい5回は通ってもらわないと覚えられない。しかもドラッグストアなんか、毎日ものすごい数の人を捌いているはずなのだ。
だけど心当たりは、ないわけでもない。
私はいつも、レジで自分の番が回ってくると「お願いしまーす」と言いながら買い物カゴを置き、会計を終えたら「ありがとうございまーす」と言いながら立ち去る。
たったそれだけのことだけど、あたりを見回してみても私のような人はあまり見かけない、たぶん。みんな無言でレジを去っていく。むしろそれが当たり前だ。レジ打ちは機械のごとく自動的に行われるものなのだから。
私がこうなったのは、パン屋で接客業を経験してからのことだ。当時の私のレジも、もちろん無言でパンの乗ったトレイを置き無言で会計を済ませる人がほとんどだった。けれどたまに、「お願いしますね」「ありがとう」と声をかけてくれるお客さんがいらっしゃった。
レジ打ちも接客で、接客はコミュニケーションなのだ、と今更のように気づかされた。それからほとんど無意識的に、私もそんなお客さんの真似をするようになった。
良かれと思ってやっているというよりは、自分がされて嬉しかったからやっているだけのこと。それでもこうして店員さんに顔を覚えてもらえて、コミュニケーションが生まれるのは悪いことではないと思う。
客によるハラスメント、通称「カスハラ」が物議を醸す昨今。だからこそ今、レジの店員さんへの「ありがとう」や、飲食店への「ごちそうさまでした」が必要なんじゃないかと思う。その一言で、日常的な買い物の中にぽっとあたたかな明かりが灯るはずだから。