確率論#8
本日は、今後議論していく上でも強力な武器となる「収束定理」についてです。
これはざっくり言うと、「期待値(積分)と極限の順序交換の定理」です。
「そんなのが役に立つの?」って思う人も居るかも知れません。
よく用いられる例を紹介した後に、それぞれの収束定理を見ていきましょう。
例1.10
$${2\leq n\in\mathbb{N}}$$に対して、$${\displaystyle{\lim_{n\to\infty}\int_0^{\infty}\frac{1}{1+x^n}}}$$を求めよ。
一見、難しそうに見えますが、$${\displaystyle{\lim_{n\to\infty}\frac{1}{1+x^n}}}$$はそこまで難しくありません。
なぜなら、
$${\displaystyle{\lim_{n\to\infty}\frac{1}{1+x^n}=\left\{\begin{array}{l}1\ (0\leq x\leq1)\\\frac{1}{2}\ (x=1)\\0\ (x\geq1)\end{array}\right. }}$$
となるのは高校数学ができる人ならさほど難しいことではないですよね。この極限関数$${\displaystyle{\lim_{n\to\infty}\frac{1}{1+x^n}}}$$の$${[0,\infty]}$$における積分は、グラフを考えてみれば当然、$${1}$$となり、問題の答えとなるのです。
このように積分と極限の順序交換が可能であれば、サクッと計算できたりする所がメリットになります。
では、具体的な主張を見ていきましょう。
定理1.11
$${X_n\in L^1(\mathbf{P})\ (n=1,2,\cdots)}$$とする。
(1)$${X_n\leq X_{n+1}\ (n=1,2,\cdots)\ \mathbf{P}\text{-a.s.}}$$ならば、
$${\displaystyle{\lim_{n\to\infty}\mathbf{E}[X_n]=\mathbf{E}[\lim_{n\to\infty}X_n]}}$$が成り立つ。
(2)$${X_n\geq 0\ \mathbf{P}\text{-a.s.}\ (n=1,2,\cdots)}$$ならば、
$${\displaystyle{\mathbf{E}[\liminf_{n\to\infty}X_n]\leq\liminf_{n\to\infty}\mathbf{E}[X_n]}}$$が成り立つ。
(3)$${Y\geq 0}$$なる$${Y\in L^1(\mathbf{P})}$$が存在し、$${\vert X_n\vert\leq Y\ \mathbf{P}\text{-a.s.}\ (n=1,2,\cdots)}$$が成り立ち、更に、$${\displaystyle{\lim_{n\to\infty}X_n}}$$が$${\mathbf{P}\text{-a.s.}}$$に存在する時、$${\displaystyle{\lim_{n\to\infty}\mathbf{E}[X_n]=\mathbf{E}[\lim_{n\to\infty}X_n]}}$$が成り立つ。
(4)定数$${K\geq 0}$$が存在し、$${\vert X_n\vert\leq K\ \mathbf{P}\text{-a.s.}\ (n=1,2,\cdots)}$$が成り立ち、更に、$${\displaystyle{\lim_{n\to\infty}X_n}}$$が$${\mathbf{P}\text{-a.s.}}$$に存在する時、$${\displaystyle{\lim_{n\to\infty}\mathbf{E}[X_n]=\mathbf{E}[\lim_{n\to\infty}X_n]}}$$が成り立つ。
(1)は「単調収束定理」、(2)は「ファトウの補題」、(3)は「優収束定理」、(4)は「有界収束定理」という名前が着いていて、どれも有名なものばかりです。
これらの証明は有名で、ルベーグ測度論の本を見ればどれも載っているのですから、ここでは取り扱いません。(もしかしたら深堀回で取り上げるかも?)
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