営業ではすべての人が主権者
飛び込み営業のお話です。
外壁塗装の工事の営業です。
しかし、あらゆる業界の営業に通じるお話でもあります。また、あらゆる人間関係にも通じるお話だと思います。
以前に、ある会社に飛込んだ時のことです。外壁の劣化が気になり、お話してみたくなって会社の中に…。
一階は工場、二階は事務所という建物でした。大きな建物です。気合が入ります。
会社を訪問する時にわたしが心掛けていたことがあります。
・従業員には大きく接する
・社長には小さく接する
ということです。
社長を軽く扱えと言っているわけではありません。
社長だからと言って、大げさにへりくだったりしないということです。
工事(商材)に対しては対等でなければ言いたいことが言えません。こちらは工事のプロとして言うべきことは言わなければならないからです。
その反対に、事務員や受付の若い女の子であっても決して軽くは扱いません。最終的に、誰が味方になってくれるか分からないからです。
そういう意味では、すべての人が主権者と言えます。
さて、一階で作業されている従業員の人に声掛けをして、二階に上がりました。無断で二階に上がると、後でお叱りを受けることになるかもしれないので声掛けは必ずやります。
二階に上がると、受付カウンターがありました。
受付の女性にこちらの身分を明かし、主旨を説明しました。
すると、こう言われました。
「うちの会社は新規の営業の方はお断りする様に社長に言われていますので、申し訳ありません。」
極めて事務的なお返答です。
まあ、会社訪問では良く言われる想定内のお返答です。そこからが飛込み営業の仕事です…。
わたしは、その受付の若い女性に向かって、外壁の状態やこのままでは今後予想される不具合などについて熱意を込めてお話しました。それも事務所に響く大きな声で。
一番奥に社長様と思われる方がおられたからです。
その方の耳に届けと言わんばかりにお話させて頂きました。
受付の女性からすれば、専門外の話でもありますし、会社にとって放っておけないことでもあるので、徐々に私の勢いに押され始め、段々と顔色が変わり始めて、奥の社長様と思われる男性の方向をチラチラと見るようになってきました。
社長様も私の方をチラチラと見られて、聞き耳を立てておられるご様子。次の瞬間、わたしはその受付の女性にこう言いました。
「失礼ですけど、あちらの方、社長様ですよね…、すみません、ちょっとお話させてください。」と言い終わると同時に、事務所内に足を一歩踏み入れました。
奥の社長様に向けて、
「社長!失礼します!」と言いながら奥に進みます。
他の従業員の方に対しても、
「お仕事中失礼します!」と声掛けしながら、奥に進みます。
その行動の一部始終を社長様はじっと見ておられます。
これを、「強引だ」、「失礼だ」と思われる方がいるかもしれないですが、わたしが押し売りをしに行っているのであれば、それはその通りだと思います。
しかし、わたしは売りに行っているのではありません。外壁の現状を伝えに行っているのです。買わなくて結構という気持ちだから一連の行動が出来るのです。
逆に、ただ売りに行っているだけの人間には、この行動が出来ません。
わたしは、一番奥の社長様のデスクまで行き、社長様の斜め前に立ちます。
真正面では圧迫感があり、厚かましく感じられるからです。
わたしは、受付の女性に話したことを、一からまたお話させて頂きました。すると、わたしの話の途中から、なぜか社長様は少し嬉しそうな顔をされ出しました。
わたしの話が終わると、社長様はニヤリとされて、応接室にわたしを招き入れました。お茶まで出して頂きました。
そこで、社長様は意外な事を言われました。
「実は、鳩が気になっている…。」
(鳩?)
以前から、外壁と屋根とのすき間に鳩が入り込んで困っているとのこと。
「外壁に足場を立てた時に、鳩が入らないようにしっかりとネットを入れさせてもらいます。」と、もう工事を任せてもらうかのようにお話したところ、
「じゃあ見積してみてくれる?」とおっしゃって下さいました。
「でも、長く付き合いのある工務店もいる…。」とのことでしたが、会社なら工務店さんとお付き合いがあるのは当り前のことです。こちらは塗装のプロです。
結局、こちらを気に入って頂き、外壁の塗装工事を任せて頂きました。大きな工事金額になりました。
わたしが熱心に経営者の方にお話させて頂くと、何故だか嬉しそうにされることが少なくありませんでした。
これはわたし個人の感想なのですが、たたき上げ(創業者)の社長様は会社立ち上げの頃は、自分が営業をしていたはずです。新規開拓は創業時には必ず必要になりますから。
つまり、若かりし頃を思い出しておられたのではないかということです。
熱心に話すわたしに、無我夢中で頑張っていた昔の自分を重ねて見られたのではないかと思うのです。だから嬉しくなったのではないか?
従業員の方についても、もしも、わたしが受付の女性を軽く見て話をしていれば、事務所の中には入れなかったかもしれませんし、見ておられた社長様も私に対して良くない印象を持ったかもしれません。
この件にとどまらず、社長様が不在の時に、女性の事務員の方に建物のことを熱心に説明したところ、その女性が後で事細かく社長様にその事を伝えて下さり、スムーズにお話が進み、工事をさせて頂いたことがありました。
後でその女性に改めてお礼を言った際に、女性と交わした笑顔が、今でも鮮明に記憶に残っています。まるで、その女性とタッグを組んだ気分です。
物を売りに行くのではなく、相手にとっていかに必要なものであるかを分かってもらえるかどうか、ということだと思うのです。
相手の役に立ちたいという誠意が根っこにあるから、その本気が相手に伝わり、心を動かします。
これは、どんな業界であれ、同じことだと思います。恋愛なども根っこは同じことが言えるかもしれないです。
自分以外の人間を自由にコントロールすることは出来ませんが、心を動かすことは不可能ではありません。
人の心を動かすもの、それは熱意。
熱意の本質は、
・誠意
・本気
・覚悟
だと思います。
それを相手が感じて心が動き出します。
政治の世界なども、一日本国民としては、もっと熱意を持って欲しいと感じることが多いです…。
相手の心が良い方向に変わる時、
そこに営業の醍醐味を感じます。
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