計画の達人は詳細化にこだわる
計画する上で一番悩ましいのが詳細化です。
前回は “詳細度” について書きました。詳細度が粗すぎると計画の信頼性を担保できませんが、細かすぎると計画作成や進捗管理に手間がかかりすぎて長続きしません。
しかし、詳細度の見極めだけが詳細化の難しさではありません。
そんなわけで、計画の達人は詳細化の全般にわたり細心の注意を払います。
今回は、プロジェクトマネジメントで用いるWBS(Work Breakdown Structure)を例にとって具体的に解説します。
WBSはプロジェクトの作業をツリー構造の枝分かれで構造的に表現したもので、WBS作成のポイントは “きちん” と作業項目を洗い出すことです。簡単に聞こえるかもしれませんが、実際にやろうとするとなかなかうまくいきません。
不慣れな人は WBSと称して “作業” ではなく “成果物” を書き並べてしまいがちです。
例えば、こんな感じです。
[計画に不慣れな人が作った成果物ベースのWBS]
レベル1 基本設計
レベル2 仕様書
レベル3 第一章 ○○仕様
レベル3 第二章 △△仕様
レベル3 第三章 □□仕様
レベル2 計画図
レベル3 XX部機構解析
レベル3 XX部機構図
レベル3 全体計画図
WBSはプロジェクトマネジメントの背骨で、進捗管理はWBSに沿って行われます。WBS上の作業に沿って「どこまで終わったか」を確認するわけです。
ところが、成果物を羅列しただけのWBSでは進捗管理の際に支障がでます。
先日の進捗会議で、こんなやり取りがありました。
プロマネ 「仕様書の第一章は終わりましたか?」
メンバー 「いえ、まだ仕様書には着手できていません」
プロマネ 「基本設計フェーズには入ったのですよね?」
メンバー 「はい、すでに入っています」
プロマネ 「あなたは先週、何をやっていたのですか?」
メンバー 「仕様書を書く参考にしようと類似事例を漁っていました」
プロマネ 「そんなこと、WBSには書いていませんよ」
このやり取りを参考に、作業を洗い出すとこんな感じになります。
[計画に慣れた人が作った作業ベースのWBS]
レベル1 基本設計
レベル2 仕様書作成
レベル3 類似事例からの情報収集
レベル3 既設計流用範囲と新規設計範囲の決定
レベル3 既設計流用のための過去情報収集
レベル3 新規設計に向けた要求仕様決定
レベル3 仕様書作成
レベル2 計画図作成
レベル3 既設計図面収集
レベル3 XX部機構解析
レベル3 XX部機構図
レベル3 類似事例の計画図評価
レベル3 全体計画図作成
話を詳細度に戻しましょう。
作業に拘ることで詳細度はある程度は決まってきますが、私のやり方を少しだけ紹介しておきましょう。
進捗会議を毎週行うような場合、私は次のような基準でWBSの詳細度を決めています。
適切な詳細度に詳細化されたWBSがもつ特徴
1. 作業の依存関係を設定できる。
2. 作業の担当者をひとりに特定できる。
3. 段取り作業や承認作業が洗い出されている。
詳細度が粗すぎると、作業の完了を待たずに次の作業を始めなければならないケースが発生します。これでは作業の依存関係を設定することができません。
詳細度が粗すぎると進捗管理にも支障が出ます。ひとつの作業に複数の担当者を割り当てざるをえなくなるからです。ひとりひとりに割り当てられた作業が同時に完了するとは限らないので、それぞれの進捗状況を計画に適切に反映するには、WBSはひとりひとりの作業の単位で詳細化すべきです。
段取り不足がプロジェクトの遅延を招くことはよくあります。例えば承認作業に必要な期間が計画に見込まれていなければ、その分、実行段階に遅れが発生します。些細なことのように思われがちですが、納期が厳しいプロジェクトの後半では命取りになりかねません。最終承認者が出張で捕まらず大慌てしたといった経験は、一度や二度はあるのではないでしょうか。
今回はプロジェクトマネジメントを例にWBSの詳細化を取り上げましたが、どんな計画においても、詳細化は計画者の悩みの種です。例えば職業や収入によって売れ筋が異なる商品の販売計画では、地域軸で大雑把に詳細化しただけでは実態を把握することはできません。
日々の計画では、計画の目的に合った詳細化を心がけたいものです。
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