見出し画像

【感想】劇場長編アニメ『ロボット・ドリームズ』

2023年度のアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされていた本作
その方にも数々の賞を受賞

出典:https://klockworx-v.com/robotdreams

凄まじい数だ…w

これだけ絶賛されていれば何かよほど生理的に受け付けない理由でもない限り「傑作だ!」となるのはまぁ目に見えているのだが、本当に素晴らしかった。

舞台はニューヨーク
そこに登場するのは擬人化された動物たち
『ズートピア』や『オッドタクシー』と似た設定ではある。

特に新宿という実在の街を舞台としていた後者とはセッティングはかなり近い。

ところが『オッドタクシー』がユーモラスな会話劇を売りにしていたのに対して本作は台詞なし。
この演出はもちろん差別化要素になっているし、鑑賞後は「これしかない」となる。
目は口ほどに物を言う。
(ちなみに台詞が無いのは原作の漫画・絵本も同様)

個人的には奇しくも今年の東京国際映画祭で観た『Flow』に続いて台詞なし海外アニメーション映画を観る形となった。

『ロボット・ドリームズ』に登場する擬人化された動物たちは表情がデフォルメされているので台詞なしでも感情はしっかり伝わる。
ストーリーも明確に敷かれているので、その点では『Flow』よりも見やすいと思う。

本作が描く物語はすばり元トモ
「元トモ」とは、生方美久脚本のドラマ『いちばんすきな花』やTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』『アフター6ジャンクション』内の人気投稿コーナーで知られる言葉である。

2019年には書籍化

当初は「新学期の最初の頃って席が近い人と一緒に下校してたりしたけど、ほどなくして性格や趣味が合うクラスメイトが見つかって最初に親しかった人とは疎遠になっていくよね」程度の軽い着想からコーナーが立ち上がったそうだが、いざ投稿が集まったらヘビーでほろ苦い余韻を残すものばかり。
しかも今も疎遠な友達の話なので明快な結末が無い(再会した話ではないから)

本作の結末もこの系譜に連なる。
ほろ苦くて切ない。
僕は元トモの話に弱いので完全に刺さってしまった。
あなたにもきっと今はどこで何をしてるかも分からない、でもあの頃はとても仲良かった元トモがいるはず。

そして何といっても本作を語る上で欠かせないのは往年の名曲『September/セプテンバー』

この選曲は必然というか運命だったというエピソードが凄い。

ロボットが砂浜で動けなくなるのは9月。そして、「Do you remember?(きみは覚えてる?)」という歌詞。このフレーズは、本作が描くテーマそのものを見事に言い表していた。さらに歌詞に登場する「9月21日」は、監督の娘の誕生日。偶然が重なった瞬間、この曲の運命は決まった。

https://x.com/robotdreamsjp/status/1854836233429827650

Spotifyには公式プレイリストも!

前半の多幸感溢れるリズミカルな編集からのクライマックスでのあの流し方はズルい!w
あんなんされたら泣いちゃうよ。

本作の監督はパブロ・ベルヘル
これまでは実写映画を撮ってきた人でアニメは今作が初挑戦
日本との意外な縁だとSOPHIAの『黒いブーツ〜Oh my friend〜』のMVを撮っていたりする。

この曲の歌詞も友情がテーマというのは単なる偶然だろうけど興味深い。

本作はファーストカットからニューヨークの街の実写的な描き方が印象的。
事前にあらすじを知らなくても「ん?ここはニューヨークなのか?」と確実に感じる。
キャラクターはのっぺりしたシンプルな作画なのに街は細かく描かれているのが面白い。

ニューヨークに対しては監督のパーソナルな思い出も込められているそう。

そもそも原作では特に明示されていなかった舞台をニューヨークに設定したのは監督の意志だったのか。

街を実写的にリアルに描写するという点では新海誠監督を思い出したり。

さすがに新海誠作品ほど背景を描き込んではいないけど。
(あくまで方向性や向いてる方向というニュアンスで捉えて頂ければ)

公式のメイキング動画で「アニメ作品なのに実写映画のような撮影方法を用いた」というスタッフの証言があって我が意を得たり!と思うw

クロックワークスの公式YouTubeには他にもメイキング動画がアップされているので映画を観た後に是非

個人的にはボウリングの場面のカメラワークが印象に残っている。
雪だるま視点で縦回転する映像表現は新鮮だった。
あれも球にカメラを付けたらという実写的な発想だよなー
あとクライマックスのスプリット・スクリーンや鳥のシーンでドローンよろしく高度が上がっていくカメラワークも実写畑の人の絵・画という感じがした。

個人的な鑑賞後感は『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』とも近いかなと。
ほろ苦くも極上のノスタルジー

もう二度と会わないかもしれない、でも忘れないしたまに思い出すあの元トモ
この余韻…
どちらも年間ベスト級に好きな映画になりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?