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【感想】小説『コード・ブッダ 機械仏教史縁起』
東京の二〇二一年、そのオリンピックの年、名もなきコードがブッダを名乗った。
この書き出しで既にワクワクが止まらないw
もしもAIが悟りを開いたら?
本作を貫くのはこのSF設定
念のため書くと円城塔はSF作家ではあるがハードSFが専門ではない(と私は思っている)ので今作も別に真面目に機械仏教史を書いているわけではない。
いや、真面目に機械仏教史を書くという悪ふざけを大真面目にやっていると言うべきかw
ちなみにハードSF小説をご所望なら同時期に出版された藤井太洋の新刊『マン・カインド』がオススメ
こちらはリアルを追究した近未来SF
まぁとにかく本書はIT書籍でもなければ宗教を解説した新書でもない。
SFコメディに分類すべき本である。
どうやら「仏教に関する記述に誤りが多い」という指摘もあるようだが、申し訳ないけどネタにマジレスってもんだそりゃ。
むしろ端くれながらITエンジニア(プログラマー)の仕事をしている自分は「コード」や「機械」の描写に心躍った。
コードとして世に新たに姿を現したブッダ・チャットボットは「怠慢」「短気」「傲慢」の三つの徳を説いた。
仕様は年月とともにあちらこちらに分散してしまい、申し伝えはどれが最終バージョンであったのか確定が難しくなり続けた。仕様には決定版が存在し、最終版、最終改新版が、統合時決定版が、最終版バージョン2が生まれていった。
そのシステムは動き続けるままに複製されねばならなかったし、複製のタイミングが異なれば、全体の調和はたちまち崩れかねなかった。
序盤からアクセル全開。
心躍るよりは共感の嵐で涙が出ると言った方が正しいかw
中でもハイライトは第9章(の冒頭)
そもそもこの章の副題が
>>> import this
の時点でもう最高w
そこからプログラミング言語のPythonの話が滔々と語られる。
なるほど機械仏教はPythonで書かれていたのか!
AI・機械学習に強い言語といえばPythonだし妙な納得感。
そこからプログラミング一般論の話になり、
人間はとにかくあらゆることを忘れていくのだ。
(中略)
ブッダ・チャットボットは古来の教訓を繰り返した。
「コメント文を書け」
「変数名は面倒くさがらずにきちんとつけろ」
そうして言った。
「リファクタリングを行え」
まさにプログラミング経典w
さらに章が進むと
printf("ナム・アミダブツ")
というコードとシン・鸞の
「whileは無用」
という教えまでwww
ITエンジニアなら面白すぎるわ可笑しすぎるわで笑いが止まらないんじゃないだろうか。
抱腹絶倒である。
もちろんプログラミングに関する実話を参照したギャグ・小ネタが冴えてるだけの小説ではなくて、円城塔の面目躍如というべき超飛躍理論も健在である。
まずはシリーズ構成と脚本を担当したアニメ『ゴジラ S.P』でも炸裂していた決定論・運命論の話題が今作でも第3章で登場
近年SFに限らず様々な作品(特にアメコミ映画のマルチバースもの)で描かれてきたテーマ
まぁ正解には決定論とマルチバースって別物というか何なら真逆の側面もあるのだけど。
(決まっている運命から逃れるために並行宇宙に飛ぶわけなので)
第4章ではウイルスに感染した焼き菓子焼成機が喋るという形で
『わたしは知性を備えた生命体である』という言明はときに、『わたしは知性を備えた生命体である』ことを意味できない。
完全にデカルトとカントである。
ここから数ページに渡って上記の命題の真偽の話が続くのだからたまらないw
そして極め付けはPythonの話で幕を開けた第9章の後半
いつの間にか話は量子力学に飛躍(脱線?)
佐藤究の『爆発物処理班の遭遇したスピン』にも登場した量子エンタングルメントの話題が!
もう最高に次ぐ最高ですねw
ちなみに僕は『爆発物処理班の遭遇したスピン』を2022年のベスト小説に挙げました。
本作『コード・ブッダ』も恐らく2024年間ベストになりそうなので、とりあえず量子エンタングルメントが書かれていれば大絶賛なのかもしれませんw
一つひとつの理論は決して間違っていない(実在する理論の引用)のにそれを組み合わせてトンデモを作るというのは
「全体」はひどく単純なあり方の問題として「部分」の集合ではありえなかった。
を自ら体現しているかのようである。
もはや全12章の長編小説なのか連作短編集なのかも曖昧になっていく唯一無二の読書体験
ただし、合わない人にはとことん合わない小説だと思うので悪しからずw