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【感想】小説『家族解散まで千キロメートル』

一見すると不思議なタイトルである。
家族解散という“地点”まで1,000kmらしいが、そもそもそんな地点のイメージが湧かない。
「家族解散まで◯◯日」という時間の表現ならまだ分からないでもないけれど。
しかし、そんな疑問は読み始めてすぐ氷解した。

本作の著者は浅倉秋成
実写映画化も決定している『六人の嘘つきな大学生』が本屋大賞にノミネートされ、続けて『俺ではない炎上』が山本周五郎賞の候補に。

お笑い好きにはレインボーのジャンボたかおの同級生で元相方という紹介の方がしっくり来るかもしれないw

そんな著者の新刊『家族解散まで千キロメートル』のあらすじ

実家を取り壊し、家族ばらばらに転居することとなった喜佐家一同。
しかし引っ越し準備中、倉庫から不審な箱が見つかる。中には世間を騒がせる盗難品が――。
犯人は、家族のいったい誰?

https://kadobun.jp/special/asakura-akinari/kazoku1000km

前述の2作品は「嘘」がモチーフになっていた。

  • 就活生が自分を大きく見せるために着飾っているプロフィール

  • 会社員(営業部長)は周囲から本当はどう思われていたのか

今作もキャッチコピーは

〈家族の嘘〉が暴かれる時、本当の人生が始まる。どんでん返し家族ミステリ

やはり嘘が物語の鍵を握っている。

ただ、このコピーは若干ミスリード。
途中までは確かに『六人の〜』のように登場人物たちが抱える秘密が一つずつ明かされていくのだが、そこの謎解きは実は前菜。
とはいえそのミステリーと、ネタバレになるので詳細は伏せるがタイムリミット型サスペンスが同時並行で走る構成で引っ張るので一気読みは必至。
誰が?どうやって?何の目的で?倉庫に盗難品を隠したのかという謎は魅力的だ。

そして本作が事件解決後に到達する真のテーマは「家族という呪い」
映画・ドラマにおいては2010年代後半に同時多発的に描かれたテーマである。
特に疑似家族を通して「家族とは何か?」を描いたものが多かった。

最近読んだ山内マリコのエッセイも同様の主題を扱っていた。
(こちらは家族そのものを問うというよりは家事労働とジェンダーなどの文脈)

本作もその系譜に連なり、家族について真正面から考えている。
惜しむらくは2024年の作品として何か新しい視点があるかというとそういうわけではないこと。
訴えているメッセージ自体は決して悪くないのだが、近年のエンタメに触れてきた人なら「どこかで聞いた話だな」とはなるかも。

もちろん著者はいきなり作風を変えたわけではない。
過去作でも就職活動やSNSへの批評性をミステリーの中に組み込んでいた。
ただ、今作はミステリーとテーマが構成上そこまで噛み合っていない面はあるかなと思う。
窃盗事件の謎を解く過程で家族の闇には触れていくのだが、その時点ではあくまで真犯人を推理するための手がかりや伏線。
テーマに到達した時にはミステリー(謎解き)は終わった後で物語の引力は弱まっており退屈に感じる人もいるかもしれない。
過去作は就活における嘘(誇大アピール)やSNSに潜む無自覚な加害性がミステリーと有機的に絡んでいただけにそこは惜しいと感じてしまった。

最後に、ストーリーの本筋とは関係ないアイテムとして登場するミスチルのアルバム『Q』について。

2000年、自分が中1の時にリリースされたアルバム。
分かりやすいポップ路線ではないので当時は聴いても難しかった。

本作では2箇所で登場する。

流れ出したのは四曲目のスロースターター。

家族解散まで千キロメートル,浅倉秋成,角川書店,P.10

「何だか…この曲みたいになってきた」
「…曲?」
「周のカセット。この古いミスチル」

同P.129

2回目は曲目が明記されていない。
カセットテープならシャッフルではなくアルバムの曲順に再生されるだろうから5曲目以降と考えるのが妥当だろう。
すると桜井和寿の作詞のマジックというか、どの曲の歌詞も当てはまりそうに思えてくるから不思議だw
個人的には車が走り出してからそこそこ時間が経過した場面な事と、やはり前後の文脈や本作のストーリーから『ロードムービー』ではないかと予想するがどうだろう?

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