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アウシュヴィッツ収容所の隣に住む幸せな家族が生む"慣れ"と"無関心"は日常生活においても当たり前に起きていると感じた『関心領域』

【個人的な満足度】

2024年日本公開映画で面白かった順位:54/59
  ストーリー:★★★☆☆
 キャラクター:★★★☆☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★☆☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

   原題:The Zone of Interest
  製作年:2023年
  製作国:アメリカ・イギリス・ポーランド合作
   配給:ハピネットファントム・スタジオ
 上映時間:105分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:小説『The Zone of Interest』(2014)

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
空は青く、誰もが笑顔で、子どもたちの楽しげな声が聞こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から煙があがっている。時は1945年、アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族がいた。

スクリーンに映し出されるのは、どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わすなにげない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる。その時に観客が感じるのは恐怖か、不安か、それとも無関心か?壁を隔てたふたつの世界にどんな違いがあるのか?平和に暮らす家族と彼らにはどんな違いがあるのか?

そして、あなたと彼らの違いは?

【感想】

何となく想像はついていましたが、やっぱりと言うべきか、アカデミー会員や批評家が好みそうな映画でしたね~。エンタメではなくアート寄り。しかしながら、普段自分がどう生きているか、何を考えて生きているかによって受け取り方が大きく変わるだとうなとも思いました。そういう意味では、奥が深い作品とでも言うべきですかね。

<面白いか面白くないかで言ったら、僕は「面白くない」>

なかなかに好みが分かれる内容ではあるんですが、映画として観たとき、面白かつまらないかと言ったら、個人的にはつまらない部類に入ります(笑)いやだって、ある幸せな家族の日常が、何の事件やトラブルもなく、淡々と映し出されるだけですよ?始終退屈でしたよ。今日は体調万全で行ったからよかったものの、ちょっと疲れてるときに観たら眠くなってしまったかもしれません。。。エンタメ寄りの映画が好きな人には刺さらないんじゃないですかね、これ(笑)

"人間の在り方"を問う不変的なメッセージ>

とはいえ、ただ「つまらない」の一言で片づけてしまうのはもったいないぐらいの設定とメッセージ性を僕は感じました。この家、敷地は広く、大きな庭もあり、プールも付いている上に、一家の大黒柱であるヘス(クリスティアン・フリーデル)からしたら、職場まで徒歩2秒という好立地な豪邸なんですよ。ただ、隣がアウシュヴィッツ収容所なんですよね。で、収容所とこの家を隔てているのは塀1枚です。この家族がごはんを食べ、団欒し、ベッドでぬくぬくしている間にも、塀の向こうでは数多くのユダヤ人が虐殺されているっていう状況、どう感じますかね。僕だったら怖くてすぐにでも引っ越したいと思いますけど。

ただ、この映画では虐殺シーンはひとつもないんですよ。ないんですけど、音響として人々の悲鳴や子供の泣き声、銃声などが響き渡り、煙突からは煙がモクモクと出ています。これで何が起きているか想像しろってことなんでうすけど、これまでユダヤ人の迫害に関する映画をそれなりに観てきた身としては、痛ましい映像が浮かんできます。。。逆に、予備知識がまったくない人には何が起きているのかわからないかもしれませんが。なんにせよ、画では見せないだけで、ユダヤ人の虐殺は日常的に行われているんです。それなのに、この家族はそれに気を留めることはないんですよね。妻はユダヤ人が持っていたであろう毛皮のコートに袖を通し、子供たちは同じくユダヤ人のものであると思われる金歯を物珍しそうに見ています。まるで、恐竜の歯を観察するかのように。ヘスが家族にどこまで話しているかは知りませんが、少なくともこの家族にとっては、ユダヤ人がどうなろうがまったくもってどうでもいいことなんでしょうね。ユダヤ人の存在が自分たちの人生において何の影響も及ぼさないことを知っているからなんでしょうか。毎日聞こえる悲鳴や銃声だって、現代で言うところの隣の家から漏れてくる音楽や道路を通る車の音ぐらい日常の一部なんですよ、きっと。妻に至っては、夫の転属が決まったときに、「この家を手放したくないから、あなたひとりで行ってきて」という始末。第三者からしたら、「だいぶバグってんな」とは思いますが、実際そこに住む彼らからしたら、この環境に慣れた上で、自分たちのこと以外には無関心なんですよね。だから、アウシュヴィッツ収容所が隣にあっても、別にそれが日常のことかつ自分たちには何の関係もないと思っているのであれば、特に恐怖も感じないのかもしれません。

<自分の身のまわりに置き換えて考えられる>

この家族のような"慣れ"や"無関心"を怖いと感じるかどうかは、この映画を観ている人の価値観や生き方によると思います。そもそも、この"慣れ"や"無関心"っていうのは何もこのアウシュヴィッツ収容所のような特殊環境に限った話ではなく、普段のみなさんの生活にも当てはまりますよね。仕事でも何でも、外から見たら「これ絶対おかしいだろ」っていうことでも、中にいる人はそれに慣れてしまって何とも思わなくなっていることもあるでしょう。また、今こうしている間にも戦争や病気で亡くなっている人、困っている人はいるのに、特に何かするわけでもないでしょう。だから、人って社会的な生き物という割には、案外自分と身近な人のことして見えてないし考えてないし興味すらないのかなって。別にそのこと自体が悪いっていうわけではなく、あくまでも事実として、です。自分もそういう面があるので言い訳っぽくなっちゃいますけど。。。

<そんなわけで>

アウシュヴィッツ収容所の隣に住む家族という目を引く設定ながらも、描かれているのは人間の在り方というか人間の本性みたいな、本質的部分のように感じられました。当時のユダヤ人の状況をよく知る人だったり、歴史的な知識が多い人だったり、見ず知らずの困っている人に寄り添えるような人には、より一層重くのしかかる作品かもしれません。


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