【ネタバレあり】邦画史上トップクラスの面白さで今年最も人に薦めたい!時代劇の見方が変わる笑いと興奮と感動の2時間!!侍としての使命を時代劇を通じて果たさんとする姿に魂が震えた『侍タイムスリッパー』
【個人的な満足度】
2024年日本公開映画で面白かった順位:14/110
ストーリー:★★★★★★★★★★
キャラクター:★★★★★★★★★★
映像:★★★★☆
音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★★★★★★★
【作品情報】
原題:-
製作年:2024年
製作国:日本
配給:ギャガ、未来映画社
上映時間:131分
ジャンル:コメディ、ヒューマンドラマ、アクション
元ネタなど:なし
公式サイト:https://www.samutai.net/
【あらすじ】
※公式サイトより引用。
時は幕末、京の夜。
会津藩士高坂新左衛門(山口馬木也)は暗闇に身を潜めていた。「長州藩士を討て」と家老じきじきの密命である。名乗り合い両者が刃を交えた刹那、落雷が轟いた。
やがて眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知り愕然となる。一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ少しずつ元気を取り戻していく。
やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくため撮影所の門を叩くのであった。
【感想】
※以下、敬称略。そしてネタバレあり。
衝撃です、、、!自主製作映画でここまで面白いものが作れるなんて、、、!江戸時代の侍が原題にタイムスリップして、時代劇の斬られ役になるという設定からして面白そうでしたが、いやいや、実際には予想をはるかに超える面白さでした、、、!!
<単館スタートから全国へ!>
この映画、もともとは2024年8月17日に池袋シネマ・ロサの1館のみでの公開されたのですが、クチコミであれよあれよと言う間に広まっていき、2024年10月5日時点では153の劇場で上映しています。1館から封切られた作品が1ヶ月で100館以上に広まったってのはもうハンパないですよね!パンフレットすら作られなかったのに、ファンからの要望を受け、公開から2ヶ月近く経って制作されることになったという異例っぷりです。安田淳一監督は他にも照明や車両、チラシ作成など11役以上こなしている上に、本作で助監督役だった沙倉ゆうのは実際に助監督も務めています。この手作り映画の大躍進はまさにかつての『カメラを止めるな!』(2018)を彷彿とさせます。実は監督自身もその作品を意識して、再現性を持たせるよう作ったそうですね。とはいえ、うまくいくかもどうかわからず、しかも監督は米農家でもあり、農業もやりながらの製作だったというからもはや正気の沙汰じゃありません(笑)ちなみに、公式サイトの役者とスタッフの紹介文、監督が書いてるみたいなんですよ。プロフィールだけじゃなくて撮影の思い出話も盛り込まれていて面白いのでぜひ読んでみてほしいです(笑)
<本物の侍が斬られ役に?!>
さて、本編についてなんですが、もうメチャクチャ面白いですよ!「タイムスリップ」という使い古されたネタでよくここまで面白いものが作れるなと感服しました。高坂新左衛門という侍が敵と刃を交えた瞬間、落雷によって現代にタイムスリップするんですが、行った先が時代劇の撮影所。自分のいた時代と同じような環境だから、いつも通りに振る舞うんですけど、あくまでも現代における時代劇の撮影ですからね。まわりからしたら何だこいつ状態ですよ。エキストラが決まった動きをしてパントマイムで演技しなくちゃいけない中で普通に声を出してしまうことのおかしさは、撮影に参加したことある人ならより共感できるでしょう。
そんな行き場のない高坂が、時代劇の助監督である山本優子(沙倉ゆうの)に何かと気にかけられながら、お寺に居候することになり、時代劇を身近に感じながら、「この時代で自分にできること」を模索した結果、斬られ役になるというのが秀逸すぎる展開です。こんなの時代劇が好きじゃないと思いつかない設定ですよね。高坂も大した金にならないとわかっていても自分にできることを進んでやるっていう潔さと行動力は侍ゆえなのかもしれません。おかしいのが、高坂が斬られ役の練習をしている中で、本来は段取りを踏んでやられなくちゃいけないのに、本職が侍なもんだから、つい体が動いて相手の攻撃を防いだり、何ならそこから反撃しちゃったりするんですよ。「おまえ斬られ役なんだぞ」っていうツッコミたくなるところが一番笑いました。
<コメディから思わぬ方向へ(盛大なネタバレありです)>
そんな高坂の現代におけるすったもんだがおかしい作品なんですが、後半からまさかの事態に発展していきます。見栄えもするし動きもいいってんで、どんどん斬られ役として名を馳せていく高坂ですが、そんな彼が時代劇のトップスターである風見恭一郎(冨家ノリマサ)から相手役に指名されるんです。一端の斬られ役だった高坂からしたら大出世ですよ。ところが、この風見の正体がポイントです。実は彼、高坂が江戸時代で戦おうとしていた敵の侍だったんです!風見もあの落雷で高坂の時代から30年前の現代にタイムスリップしていたんですね。風見もまた、高坂と同じように斬られ役から始まり、出世して大スターの地位を得たのですが、たまたまテレビで高坂の存在を知り、新たな時代劇を作ろうと持ち掛けたのです。
<江戸時代を生きた者だからこその想い>
この展開も秀逸なんですが、個人的には風見のセリフに時代劇の見方がガラッと変わる衝撃を受けました。彼は時代劇を作る理由として「当時を精一杯生きた人たちの想いを残したい」と言ったんです。僕はあまり歴史に興味がないこともあってか、時代劇なんてほとんど観ないのですが、言われてみれば、確かに時代劇って架空の世界でも何でもなく、かつての日本を映した作品ですよね。それこそ、自分たちの先祖が生きた世界を再現しています。それをね、幕末の動乱をスキップしちゃった人が言うんだから、そこには本当は使命を持って生きなければならなかったときを奪われた人の無念さがあるんじゃないかなって思いまして。そう考えると無性に胸が熱くなってきて、なんか涙出ましたよ。。。
途中でいろいろありながらも撮影は着々と進んでいき、最後の高坂と風見の決闘のシーンは、高坂の申し出で真剣を使っての勝負になります。これもまた、高坂の並々ならぬ想いがあるんです。彼は別に敵対していた風見に恨みがあるわけじゃありません。ただ、本来だったら彼も幕末の動乱に身を置き、命懸けで戦う運命にあったわけです。高坂のいた会津藩は戊辰戦争で激戦地にあたり、多くの仲間が命を落としたことは想像に難くありません。高坂だってそこにいたのに、運命のいたずらか、彼もまたそれをスキップして現代に来てしまいました。だから、彼はこのままでは仲間に顔向けできないと言うんです。なので、自分も同じように命を懸けて戦うことで、せめて侍としての責務を果たそうとしたんでしょう。高坂も風見も自分たちが負うべき責任や成すべき使命を、時代劇を通じて果たそうとしていたんですね。最後の一騎打ちの殺陣シーンは本当にかっこよかったです。どちらかが斬られて命を落としてしまうのではないかとハラハラしっぱなしでした。結末は、、、その目で確かめてください(笑)
<そんなわけで>
「これは本当に自主製作映画なのか?」っていうぐらいストーリーもキャラクターもアクションも最高の作品でした。東映京都撮影所も「脚本が面白いから」と全面協力したそうですが、久しぶりに脚本そのものが面白いと思えましたね。あとはやっぱり、出ているキャストがメジャーじゃないっていうのもよかったかもしれません。これが認知度の高い有名な役者さんとかだったら、多分ここまで感動しなかったかもわかりません。知らない人たちだからこそ、変に色眼鏡で観ることなく、純粋に劇中に生きる人として捉えることができましたから。そう考えると、有名になればなるほど純粋にストーリーやキャラクターの面白さって判断しづらくなるのかもなあ。いやー、今思い返しても面白い映画でした。これはもう絶対に観ることをオススメしたいです!!